ATENジャパン 鄧 鴻群社長に聞く「2026年は前年比20%成長を目指す」
ATENの日本法人である「ATENジャパン」は2004年に設立された。日本ユーザーの多様で厳しい要求を本社フィードバックして新たな製品や技術の開発に貢献するなど、重要な役割を担っている。
鄧 鴻群氏が社長に就任、以来毎年二桁成長を続けてきた。コロナ禍による一時的な落ち込みはあったものの、過去6年間で売上高を約3倍に伸ばすなど、着実な成長を実現している。
鄧社長に、2025年を振り返ってもらうとともに、2026年の目標・抱負などを聞いた。
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――2025年はどのような年でしたか
鄧社長 日本国内の景気は総じて力強さを欠いた一年でしたが、当社のビジネスは堅調に推移し、「着実に積み上げられた一年」と総括しています。
2025年の通期目標に対して、現時点(12月)で9割以上の達成見込みです。目標にはわずかに届かないものの、ATENグループ全体の中ではATENジャパンが売上規模・達成率等の主要なKPIではトップになる見通しです。
当社の主要製品である「CNシリーズ」(IP KVM)は、これまでは主に半導体製造装置メーカー向けに対して大きく需要がございましたが、今年は半導体装置市場が例年よりやや低調でした。一方、半導体以外の製造業向けのリモート操作・遠隔監視ニーズの開拓が進み、この領域が売上を補完し、カテゴリーとしては全体的に成長基調を維持しました。
業界別では引き続き、製造業に注力しており、特にFA(工場自動化)、自動車、鉄鋼・製鉄業での進展が顕著でした。鉄鋼・製鉄業は、広い工場でのPCやサーバー管理の遠隔化ニーズが高く、導入が広がっています。
これらの業界では、CNシリーズ(CN9950/9850/9600など)が大きく伸長し、さらに同カテゴリーの上位シリーズであるオートメーション化を実現できる「RCMシリーズ」も高成長を示しました。
RCMシリーズは、高度なDXを実現するプラットフォームとして位置づけられており、単なるKVMや遠隔ツールではなく、運用管理ソリューションとして市場で評価が高まっています。
業種別では、新たな注目分野として、ビル管理・設備管理領域への展開があります。
従来、ビル管理には複数のスタッフが常駐することが一般的でしたが、これを遠隔・集中管理へ移行する動きが加速しています。設備監視、警備、サーバールーム管理などで、遠隔操作のためのKVMおよびRCMの活用余地は大きく、導入検討が広がっています。
特に2026年からKVMが消防設備のリモート管理として認められる方向にあることは、当社にとって新たな市場拡大のチャンスになると見ています。ビル管理や防災設備管理の遠隔化は大きなテーマであり、この分野でのニーズが本格化する可能性が高いとみています。
半導体業界向けでも、来年から新たに大手半導体製造装置メーカーとの取引が開始される予定です。現時点では公表できないものの、当社としては大きな進展となる案件です。この取引により、国内の主要な半導体製造装置メーカーはほぼ網羅できる見通しです。
当社のKVMソリューションは、品質、対応スピード、カスタマイズができる柔軟性が高く評価されており、業界標準として採用されるポジションに近づいています。今回の新規大口取引においても、これらの要素が決定的な評価ポイントとなりました。
半導体製造装置メーカー向けにはCN/KN/CM/KGの各シリーズを展開しています。CNシリーズは現場の遠隔操作・監視用途で最も広く採用されており、マルチユーザータイプのKNシリーズは大規模環境や高セキュリティ要件を伴うラインに適した上位モデルです。
4台のPC画面を一つの画面で自由に操作できるマルチビューKVMPスイッチのCMシリーズは既存の設備管理に活用され、ライン全体の運用性向上に寄与しています。また、最大32ユーザーが独立した接続を提供できるKGシリーズ(KG0016/KG0032)は32台までのサーバーの同時利用が可能で、従来製品比でレスポンス性能も大幅に向上し、半導体製造装置のみならず、サーバールーム、データセンター、コールセンター、金融機関など幅広い領域で採用が拡大しています。
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――2025年に特に注目された製品・カテゴリーは
鄧社長 2025年、社内外で特に注目された製品には電源の可視化や遠隔制御ができるPDU製品があります。当社では「リブーター」と呼ばれる製品が市場で強い反響を得ています。リブーターは電源の死活監視ができる他、ネットワーク経由で電源のON/OFFや再起動(リブート)を遠隔操作でき、保守作業を大幅に削減できる他、導入・設定が簡単で、少ポートモデルの追加により無駄のない設備投資が実現できます。
リブーターの「PE4104AJ/4104AJ2」は、NEMAタイプ4ポートの電源アウトレットを持ち、TCP/IP経由で機器ごとの電源をリモートで制御できます。アウトレットごとに電源投入シーケンスや遅延設定ができ、機器の安全な起動を管理できます。また、PE4104AJ2は、耐温度拡張モデル(マイナス10℃~60℃対応)です。耐環境温度の広さから 屋外・半屋外・高温機械室など、従来の競合製品がしづらい領域を狙った戦略的製品として位置づけています。
これらの取り組みにより、弊社のPDUは2025年に存在感が高まりした。2025年、PDU製品群(リブーター/電源制御装置)は多様なアプリケーションで利用が広がり、年間で約数千台規模の出荷をし、前年比約80%と非常に高い成長率を記録しました。
背景には、デジタルサイネージ、山間部インフラ・中継局などの遠隔設備、店舗・拠点のIoT/ネットワーク機器、製造業FAラインのネットワーク監視などでの遠隔化/リモート化が急速に進んでいることがあります。
特に「遠隔地に設置している機器の死活監視」「現地作業の削減」は費用対効果が高く、PDUカテゴリー全体の販売拡大を直接押し上げています。
加えて、AIサーバーおよびデータセンターの電力需要増加もPDU需要拡大の要因となっています。AIサーバーやDC設備では消費電力が大きく、三相・単相が混在する多様な電源仕様への対応が求められます。
すでに多数のPDU機種を展開中(200V/400V、三相・単相など)ですが、さらなる大電力対応として、63アンペアクラスのPDUを視野に開発を進めています。今年の早い時期には新製品を投入したいと考えています。
最良の製品と体験を市場に届けるのがATENジャパンの使命
――PDU以外に注目された製品は
鄧社長 2025年の新製品として大きな注目を集めたのが、ビデオエクステンダーの「VE8662」です。4分割での表示を可能とし、PoEに対応し、電源ケーブルが不要で、LANケーブル1本で接続と給電が可能です。また1台で「トランスミッター」と「レシーバー」の両モードを切り替えて使用できるため、従来必要だったペアで製品を用意する必要がなくなりました。旧来モデルと比較して約20%超のコストダウンを実現しつつ、機能面は大幅に強化しています。
ビデオウォールプロセッサー「VW3620」も高い評価を得ています。最大4K60p 4:4:4のHDMIソースをシームレスに配信でき、ほぼ遅延やフレームロスのない高画質かつリアルタイムな映像伝送が可能です。マルチゾーン対応(4ゾーン構成)で、各ゾーンは16画面のサブレイアウトを形成可能です。さらに新たにIPポートが追加され、IPエクステンダーの複数スロットインにも対応しました。

「VE8662」
KVMエクステンダーの「KEシリーズ」も進化しています。従来のKEシリーズでは、マルチビューに対応しておらず、拡張性や監視用途への適応力に限界がありましたが、新製品の「KE8980MR」(MR=Multi―View Ready)は、16画面までのマルチビュー表示に対応し、1画面上で複数のソースを表示可能です。また高速切替にも対応し、セキュリティ監視、金融取引所、映像制作など、切替速度が求められる環境に適したモデルです。リリース直後ですが市場反応は非常に良好なため、2026年に期待できる製品です。

「KE8980MR」
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――毎年多数の新製品をリリースすることで有名でしたが、最近は変わりつつありますね
鄧社長 ATENグループ全体の開発方針も、この数年で大きく変わりました。7~8年前は年間で約100製品も市場に投入していました。現在は注力すべき製品に開発力とマンパワーを集中する方針へシフトしています。新製品数は現在、年間60機種程度に絞り込んでいます。
市場の特定ニーズに合致する「高性能・高品質・高パフォーマンス」製品にリソースを集中することで、現場のニーズに的確に応える主力製品の強化を加速しています。
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――2026年期待の製品は
鄧社長 2026年はコンシューマー向けの新ブランド「ATEN Essentials(エッセンシャルズ)」の展開に期待しています。ターゲットは個人ユーザーで、AmazonなどのECサイト向けに展開していきます。ラインアップは、USB関連製品や8K対応のケーブルなどの汎用性の高い製品群です。
デザイン面では従来モデルから大幅に刷新し、ATENの既存カラーであるブルー系から、オレンジと黒を基調とした新しいブランドカラーへ転換しました。BtoB製品と差別化したブランド世界観を構築するため、従来ATENブランドのイメージから意図的に分けています。
背景として、近年ATENのBtoC事業は世界的に縮小傾向にありました。Amazonの価格順表示では中国メーカー製品に埋もれてしまう課題がありました。こうした状況を踏まえ、デザイン性と品質を維持しつつ、価格面でも競争力を確保できる新シリーズとしてEssentialsを立ち上げたものです。このため、デザイン性・品質は維持しながら低価格帯で勝負ができる新シリーズを投入します。
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――2026年の目標は
鄧社長 2026年は極めて重要な一年と位置づけています。2026年は前年比20%成長を目標としています。毎年、目標を立てていますが、今年は本社から初めて「自ら厳しい目標を達成する前向きな姿勢で評価できる」とのコメントがあったほど、攻めた計画です。弊社は過去6年で売上を約3倍にしており、この実績からも20%成長は十分に現実的な目標と捉えています。
また、拠点展開については全国的な整備がほぼ完了し、サービス範囲の拡大に加え、修理・保守領域の強化によって、より広範で迅速な顧客サポート体制を構築できます。
プロモーション面では、展示会や業界セミナーへの出展・協賛を継続し、ブランディング強化を図っていきます。費用高騰の影響はあるものの、当社の認知向上には必要不可欠と判断しています。さらに、直接顧客向けのセミナーや説明会を拡大し、製品理解の促進と商談化率の向上を目指します。
製造業市場では当社ブランドやソリューションの認知が依然として低いのが現状です。このため代理店教育や同行営業などを通じて営業力の底上げを図ります。
ソリューション営業も強化していきます。自社製品にサードパーティー製品を組み合わせた提案・構築・設定・プログラミングまで対応します。このソリューション営業は過去3年間で基盤を構築済みで、今後はより独立した形へ成長させる計画です。
前年比20%成長は高いハードルではありますが、過去の実績と市場拡大を考慮すると「十分達成可能な数値」であると確信しています。
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――最後にメッセージをお願いします
鄧社長 日本市場は要求レベルが極めて高く、標準仕様では対応しきれないケースも多いのが現実です。当社はこうした高度なニーズに応えるべく、仕様調整やカスタマイズを厭わず、最適なソリューションを提供してきました。
今後も台湾本社との橋渡し役として、日本のユーザー要件を正確に伝え、最良の製品と体験を市場に届けることがATENジャパンの使命であると考えています。
この記事を書いた記者
- 放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。


