日本ケーブルラボが第16回定時社員総会(6)

 ◇2024年度事業報告(抜粋)

 3)「新サービス」

 6、ケーブルDLNA運用仕様改定の検討「技術委員会」
 ACAS対応の自主放送に合わせた宅内DLNA運用仕様の改定を目的として、2023年度よりEG(Expert Group)を立ち上げ、2024年度に想定される以下の課題について仕様改定作業を完了した。
 ①HEVC(High Efficency Video Coding)番組のLAN録画対応②4K字幕および文字スーパー付きHEVC番組のLAN録画対応③無線LANのみを搭載するレコーダの追加対応④リアルタイム配信におけるコピーネバーコンテンツの扱い⑤IP放送コンテンツのLAN録画対応
 現時点では、まだ機器ベンダの開発計画に無い運用仕様も含まれるが、運用仕様書改訂版については2025年度上期に発行することとし、一部の仕様に準拠した製品から実証試験を行って機器認定を可能にしていく。

 7、BS右旋帯域再編の検証「事務局WG」
 BS右旋での4K放送の追加に伴う右旋帯域および左旋帯域での再編に対応するため、2024年度は前年度末に完成した検証ストリームを使用して、STBベンダ5社、トランスモジュレーション装置ベンダ4社およびケーブル事業者2社で再編検証を実施した。
 BS2Kの再編検証においては、STBならびにトランスモジュレーション装置とともに問題は確認されなかったものの、BS4K(高度BS)においてはいくつかのSTBで軽微な課題が判明した。当該STBについては、総務省ならびに日本ケーブルテレビ連盟と情報共有した。
 以上の検証概要および結果を最終報告書としてとりまとめ、検証作業の委託元である(株)NHKテクノロジーズへ提出した。これをもって本WGの活動を終了した。

 8、生成AIの活用法の検討「事業企画委員会/技術委員会」
 現在、各業界で生成AIを活用した業務効率化が進む中、ケーブルテレビ業界においても同様に生成AIの導入を目指した取り組みを進めた。特に、セキュリティリスク管理の観点から、生成AIが機密性の高い社内情報を取り扱う際にデータ領域を限定してセキュリティを確保する、RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術について注目した。そこで、設定自由度の高いAWS社等が無償提供するRAG環境を利用し、ラボ情報資産である技術文書(SPECやDOC等)を情報ソースとしたRAG環境を構築・活用してPoC(概念実証)を実施した。そのPoCで習得した知見や考察、ならびに生成AIを活用する際に留意すべき事項等をいち早く整理し、「生成AI活用に関する調査実証報告書」として取りまとめた。

 9、無線を活用した中小企業向けBtoBビジネスモデルの検討「事業企画委員会」
 ケーブル事業者が固定回線と無線通信技術を組み合わせることで、地域に根差した新たなBtoBビジネスの可能性を検討した。企業や行政向けの業務効率化や課題解決、新たな付加価値の提供につながる無線通信技術のユースケースを整理すると共に新たな技術であるWi-Fi HaLowなどの無線技術に焦点を当てた議論を行い、「DOC-111 無線を活用した中小企業向けBtoBビジネスモデル調査報告書」として2025年5月に発行した。

 4)「無線」

 10、低軌道衛星によるネットサービス評価「技術委員会」
 現在サービス提供中および計画中の低軌道衛星サービス(Starlink、Kuiper、OneWeb、AST SpaceMobile)について、システム概要、伝送性能、料金等の比較調査を行った。これらのサービスのうち、現在、日本国内で利用可能なStarlinkに注目し、標準フラットアンテナをラボの入居ビル屋上に設置し、継続的な伝送性能・品質評価を行い、「DOC-112 低軌道衛星によるサービスの調査とケーブルテレビ事業者への活用提言」として2025年5月に発行した。
 評価試験は、スループット測定(下り・上り)ならびに遅延測定(PING値)を中心に行った。平均スループットは350Mbps(下り)・30Mbps(上り)で、DOCSIS3.0以上であることから、ケーブルテレビの競合サービスと認識する必要がある。PING測定より、15秒のN倍の間隔で衛星切替に伴う回線断が発生することが判明した。このため、高品質の映像伝送等においてはエラー再送機能を有するプロトコルを利用する等の留意が必要である。ただし、Teamsなどのエラー再送機能のある汎用アプリでは映像・音声の断を感じることはない。

 11、IP放送提供に向けた屋外ワイヤレスアクセスの実証評価「技術委員会」
 ケーブルテレビのアクセス網におけるラストワンマイルソリューションの一つと期待される60GHz帯FWA(Fixed Wireless Access)システム(IEEE802.11adまたは11ay)について、前年度の机上検討を受け、実際に栃木市のケーブルテレビ事業者の敷地内に装置を設置して性能評価試験を実施した。
 試験では、親機-子機間の距離と受信信号強度(RSSI)および変調符号化指数(MCS)の関係についてデータを取得し、200㍍以内であれば親機-子機間(上下)で実用指針となる500bps程度の伝送が可能であることを確認した。
 一方、600Mbps程度の試験ストリームによるビット誤り測定では、原因不明のビット誤りが測定されたことから、現在エラー発生原因の究明を進めている。

 12、Wi-Fi7によるワイヤレスサービスの高度化「事務局」
 最新のWi-Fi規格であるWi-Fi7は、伝送速度の向上、低遅延、無線干渉時の速度低下の抑制などの特長を有し注目度が高いことから、これらの特長と関連技術を整理するとともに、市販されているWi-Fi7ルータの実機評価試験を行った。
 評価試験では、最大TCPスループットは、6GHz帯、320MHz幅、4x4MIMOの条件で6.4Gbpsを、2.4GHz帯+5GHz帯+6GHz帯のマルチオペレーションの条件では9.2Gbpsを確認した。遅延時間はWi-Fi 6Eの2分の1以下であった。さらに、マルチRU(Resource Unit)機能による多端末動作時のスループット向上とプリアンブルパンクチャリング機能による干渉発生時の速度低下抑制の効果を確認した。

 以上の評価試験結果とWi-Fi7による新サービスの展望をまとめ、「DOC-106 Wi-Fi7によるワイヤレスサービスの高度化調査報告」を2025年4月に発行した。

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田畑広実
元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。