東京ケーブルネットワーク、立体マップ作成サービス「360°ビューイング」

 東京ケーブルネットワーク(TCN、東京都文京区、津滝義仁代表取締役社長)は、町会・自治会と連携した地域課題解決DXサービスを立ち上げ、同社の立体マップ作成サービス「360°ビューイング」を用いて文京区の根津地域にて避難所のバーチャル化を実施した。「360°ビューイング」とは、建物などの実空間を3Dスキャンできる特殊なカメラで撮影することで、スマホやWEBサイト、VR等で建物内をウォークスルー閲覧できるコンテンツ。TCNでは、東京ドームのような大型施設の撮影・スキャンを行っており、学校・博物館・商業施設・観光施設・ホールなど作成実績がある。避難所のバーチャル化では、避難所設営時の状態を「360°ビューイング」で3D化しておくことで、タブレット等の画面を操作するだけで実際の現場の画像を辿りながら避難所開設までのイメージを3Dで確認することができる。「電波タイムズ」では9月の防災月間に合わせて、松尾遼・東京ケーブルネットワーク未来創造部次長兼未来開発グループ長に話を聞いた。

 立体マップ作成サービス「360°ビューイング」サービスの特長は次の通り。
 ①臨場感あふれるコンテンツの提供
 建物内を360度自由にウォークスルーでき、様々な角度から内部を閲覧することができる。また、測定モードでは建物内のあらゆる箇所の長さを高精度で計測することができる。
 ②3D・2D俯瞰図の生成オプションで3Dモデルも可能
 建物を立体的に見せるドールハウス(3D)、間取りを一目で確認できるフロアプラン(2D)を生成。さらにオプションで、XRコンテンツやデジタルツインに活用できる3Dモデルを作成することが可能だ。
 ③コンテンツ内に写真・動画のリンク設置
 注目ポイントや補足ポイントに写真・動画・テキストなどのリンクを設置可能。直感的に情報を伝えることができるので、このコンテンツひとつで建物のすべてをPRすることができる。

 取材した松尾遼・東京ケーブルネットワーク未来創造部次長兼未来開発グループ長は、立体マップ作成サービス「360°ビューイング」を始めたきっかけについて「未来創造部は2020年4月に立ち上げました。ケーブルテレビの放送やインターネット、電話サービスに替わる次世代の新たな収益の基盤を作っていこうというのがねらいでした。そのひとつ『360°ビューイング』は21年1月に開始しました。当初は、イマーシブ映像(「没頭させる」という意味で、体験する人がその空間やコンテンツに深く入り込んだように感じる状態のこと)の研究を行っていましたが、この時期、新型コロナ感染症拡大があって、なかなか外出できない中、オンラインのVRサービスなどが広まり始めてきました。そこで、映像にプラスして何か新しいソリューションができないか考えました。コロナでリアルには行けない場所をオンラインで体験する、バーチャル施設内をアバターで歩いたり、何か新しい事業としてできないかといったところから『360°ビューイング』が始まりました」と述べた。
 その後、ケーブルテレビ事業者が地域DXによって、地方自治体の社会課題解決に貢献する動きが出始めて、同社は防災と結びつける形で、避難所のバーチャル化に行き着いた。自治体では、地域の避難所開設訓練を小学校で行っているところが多い。松尾さんは「セキュリティの問題などもあって、根津地区の小学校のバーチャル化には、撮影するまでの間に行政及び地元の方々と1年以上やり取りしてコンテンツが完成しました」と話す。
 『360°ビューイング』は、7月に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された「ケーブル技術ショー2025」に出展。引き合いが多かったという。
 「『360°ビューイング』は、ケーブルテレビ事業者や自治体に限らず、一般企業にも拡販しています。当社の場合、株主に東京ドームがありますので、最初は東京ドーム内部や周辺施設をバーチャル化しました。東京ドーム近隣にはホールやホテルもあって、そういった実績を積みながら、全国のホテルやホールへの拡販を進めています。そういった中、ケーブルテレビ局は地方自治体との結びつきが強く、ケーブルテレビ事業者の横の連携も強いので地方自治体に向けては、ケーブルテレビ局を通して拡販するケースも増えています」(松尾氏)。
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 続いて立体マップ作成サービス「360°ビューイング」で、文京区内の小学校の避難所VRを実際に見ながら特長を聞いた。
 このサービスはグーグルの「ストリートビュー」と似ているようだが、全く違う作り方という。
 「ストリートビューは360度の写真をたくさん撮って、それをつなぎ合わせていく考え方です。当社で利用している仕組みは、最初に施設の3Dスキャンを行い、3Dスキャンした建物の距離データの上にきれいに写真を貼り付けていくイメージになります。実際の作業はAIがすべて行います。建物の形に対して写真を貼り付けていくので、 360度という観点では似た形に見えますが、根本的な作り方が違うことがひとつの特長です」(松尾氏)。
 さらに違いとして「『360°ビューイング』は、平面図に加えて、俯瞰で上からの立体図を見ることができます。写真の加工だけではできない仕組みです。このほか、距離を測れることが特長です。例えば今、いる場所から壁との距離が自動的に計測できます。測りたい場所との距離が何メートルと出ますので、何気なく置かれている椅子の幅はこれぐらいとかわかります。ここのメリットは例えば搬入搬出の時にこのドアはどれぐらいのものが通れるとかわかります。あとは部屋の中に全く何も置かれていなくても、空きスペースの状況がイメージできますので、ここにこの大きさのラックが何台置けるといったことが分かります。避難所では救援物資の収納や体育館での避難所スペース、テントを何張り立てて何人が収容できるとかがイメージできます」(松尾氏)。
 さらに松尾氏は他にない強みを説明した。
 「フロア数が多い建物、例えば増改築を繰り返している旅館では、各階ごとを示した立体図面によって、複雑なレイアウトの建物であっても、この階段がどこにつながっているのかなどが分かりやすい。迷路状態を防ぎます。建物を横から見たような図ですが、お客様への非常口・避難経路の説明、車椅子が通れるかといったバリアフリーの説明にも便利です。ストリートビューの360度画像は、画像自体は確かに360度ですが、マップはどうしても平面になってしまう。地図上が平面なので、旅館のケースでもいまひとつどこがどうつながっているかわかりづらい。『360°ビューイング』はこの2階のすぐ下層階はどうなのかなど非常に分かりやすい。立体的な建物でどこがどうつながっているかが実際は分かりづらくても、『360°ビューイング』は非常に分かりやすい」。
 加えて特色としては「ヘッドマウントディスプレイ(VRデバイス)対応です。すでにVRデバイスに対応しており、これも距離のデータを持っているからです。普通の360度画像は単純な天球で、要するにプラネタリウムと同じ状態です。プラネタリウムも360度球体があって、そこに画像が出てきます。単純な画像では星空ならまだいいのですが、もうのっぺりした絵になってしまう。『360°ビューイング』は距離のデータを取っていますので、 VRデバイスで見たときにほんとうにそこにいるかのような臨場感が味わえます。距離感のデータを持っているからこそ立体感が出てきます」という。
 このほか建て壊してしまった建物、例えば街の銭湯などで壊す前にバーチャル化することで、存在しなくなってしまった建物をアーカイブで保存できる。これまでは写真や映像で残していたものをバーチャルで懐古できる。昔の建物の中にもう一回入った気持ちが味わえるのだ。
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 避難所VRに特化していうと「避難所設営訓練は小学校が休みの日、土・日に学校を借りて行うことが多い。休日に仕事のある人などその日に集まることがなかなか難しかったする。ですから、避難所VRを実際の学校に行かなくても公民館などで机上訓練として実施しています。平日の夜に実施すると仕事終わりで参加しやすく休日、来られない人も参加できる。これを見ながら防災士が説明しています」と実用シーンを話した。
 「次に実際のコンテンツで説明しますが、まず、こちらの小学校は発災時には正門が使えません。この画面は裏門の様子ですが、裏門の画像の上に①の表示が出ていますが、実はこれは紙のマニュアルと連動しています。避難所訓練マニュアルに①裏門から入って鍵を開けると書いてあって、これは実際の画像なのでイメージしやすい。さらに画像の所定の一部をクリックすると、映像が出てきます。担当者が説明しているので、音声と映像で鍵は誰が持っているか、次にどこに向かうのかなどがわかります。違う場所に移動して②が表示されると『ここに鍵があるので、この鍵は誰が開けてください』と喋っています。次は備蓄庫になっています。ここにリンクを貼って、このリンクを開くとPDFなどが見られてリアルタイムの備蓄の様子が分かります。リンクを貼っておけば更新して最新情報が入ってきます」と話した。
 次に「体育館の中に入ります。ここが避難所になっています。ここにも③④とか振られていますので、この数字の順番の通りに確認していきます。パーティションの説明とか入っています。とにかく実際の画像ですのでイメージトレーニングしやすい。具体的にはここの空間に避難テントをいくつ置くかなど。さらに避難所VRの中にCGを埋め込むことができます。先ほどのパーティションと同じ大きさの避難所用パーティションをCGで入れ込んで、設置イメージが掴めます。距離データがあるのでこの空間にパーティションがいくつ置けるかもシミュレーションできます。実際にないものを置いてイメージできるのです」と述べた。防災士からは実際のパーテーションを組んでいくつ置けるか実験しなくて済むと話していたという。
 「避難所VRを始めたきっかけのひとつが、避難所開設訓練はだいたい一年に一回しか行わないそうです。自治体の担当者も異動があるので、前回の避難所を開設した内容を知っている人が誰もいないと聞く。こうした状況では、例えばパーティションの立て方も分からない、覚えていないという。ですから平時の時に机上訓練で避難所開設のノウハウを覚えてもらう。訓練の段階でイメージしてもらうことで災害時に役立てていただく。こういう思いで作りました。実際に場所に行かなくても、これを何度も何度も見ていただいて、イメージをしてもらうことを大切にしています」。
 このほか、お手洗いの入り口なども実地訓練ではいっぺんに見られる人数が限られてくるので、画面化することで場所や状態を、まさに現地で訓練しているかのように見ることができる。
 近年、学校のセキュリティ問題が深刻になっている。避難所VRでは、プライバシーに配慮して教室への廊下や入り口はぼかしをかけて進めないようにしている。廊下に展示してある習字の作品もボカシがかかっている。下駄箱の名前もそうだ。
 「不審者侵入の事件もよく聞きます。学校の構造がすべて分かってしまうと、不審者が侵入しやすい、逃走ルートもわかるので、そういったことにも配慮して、必要最低限のルートだけを表示しています。なにより誰でも見られる状態にはなっていません。ページ自体にパスワードをかけておりますので、パスワードがないと入ることができません」と松尾氏。
 「紙のマニュアルでは文字でしか書いていないものがビジュアルでも見られると。紙で何度も読んでいたものがビジュアルに結びつく。ほんとうにイメージトレーニングに最適なソリューションとなっています。今後は迷わないように、ルートファインダーという、どこから入ってどこに行くのかA地点からB地点まで行くのに最短のルートはどこかを示す仕組みを実装したい。さらに、IoTセンサーとの連動も検討しています。このデータは撮影した時点で情報は止まってしまうので、IoTセンサーと連動することで、例えば温度、湿度ですが、避難所がこの暑さになったらどうなるのかシミュレーションができるようにしたい。人が密になった時の熱中症対策とか、いわゆるデジタルツイン的なことを行っていきたい。人流シミュレーションもそうです。この建物で今、発災した場合には、避難した時にどこに人が溜まりがちだとか、危険性はどこにあるかみたいなこともシミュレーションできるのでは。この中にリアルタイムの情報を入れ込むことでシミュレーションしたものを、またリアルに返していくことができないかと思っています。避難所の設営方法、避難経路というのは、知っている方が多ければ多いほど、知識が深ければ深いほど、何かあった時には役立ちますので、ぜひこのソリューションを、イメージトレーニング用として、ご検討いただければと思っています」と松尾氏は話した。

写真は 小学校の体育館。左側は実物だが右側は避難所用パーティションをCGで入れ込んだもの

この記事を書いた記者

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田畑広実
元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。