
ケーブルテレビ株式会社、地域新電力事業に参入
ケーブルテレビ事業者「ケーブルテレビ」(栃木県栃木市、髙田光浩代表取締役社長)は、「地域の皆さまに新電力の恩恵を」の思いから、2016年より代理店として電力小売事業を始めた。そして、総合広告会社の日宣(東京都千代田区、大津裕司代表取締役社長)と共同出資で、地域住民への電力小売事業を展開する「ホームタウンエナジー」(栃木県栃木市、髙田光浩代表取締役社長)を2020年9月に設立。同年12月に電力小売免許を取得し、21年4月に「ホームタウンでんき」の販売を開始した。同社は、大手電力会社や新電力会社より比較的安価に抑えた価格設定が特長で、「『低価格で安心な新電力』で、地域コミュニティを元気にする。」とPRしている。「ケーブルテレビ」では「電力小売事業は電力セット販売による加入促進や、解約防止につながる。ケーブルテレビ事業との相性の良さを実感している」という。「ケーブルテレビ」常務取締役でホームタウンエナジー取締役の中沢利樹男氏、「ケーブルテレビ」営業本部本部長でホームタウンエナジー営業部部長の米田努氏に話を聞いた。
「ケーブルテレビ」は、電力小売事業を『放送、通信に続く事業の柱に育てよう。SDGsの流れの中でエネルギーの地産地消・脱炭素化への挑戦をしよう』との考えで、地域新電力の事業化を進めた。
ケーブルテレビが新電力事業を行う優位性は
①ケーブルテレビサービスの利用者の顧客基盤がある(訪問説明が可能、料金徴収可能)、テレビ・ネット等の訪問営業力がある
②テレビ・ネットとのセット利用による割引が可能
③ケーブルテレビ事業と比べて設備投資負担が少ない―ことが挙げられる。
①では他の新電力会社の苦労している点をすでにクリアしている。
一方、顧客にとって「ホームタウンでんき」サービスのメリットは
①大手電力会社でかかる間接コストを抑え、低価格で届けられるため、独自の料金メニューにより月々の電気料金が割安
②手続きがワンストップ。ホームタウンエナジーに申し込むことで電力会社との契約の解約手続きは不要
③電気の品質や送配電の仕組みは変わらないので、安心・安全はそのまま④ケーブルテレビの加入サービスに応じたセット割でさらに月々の支払いが割引になる。請求もケーブルテレビにひとまとめ―となっている。
ホームタウンエナジーの業務範囲は、大手電力会社からの電源調達や、電力卸市場への毎日の入札で、需給管理等をすべて内製で対応している。他の電力会社では需給管理等を外部委託するところも多い。
中沢利樹男ホームタウンエナジー取締役は「当初代理店として電力小売販売を開始していたところ、電力とケーブルテレビの親和性が非常に高く、相性がいいビジネスと感じていました。そこで、代理店ではなく電力の調達も含めて行うことで、放送、通信に続く事業の柱にならないかと考え、新電力会社設立に挑戦しました」と話した。
さらに「地域密着型のケーブルテレビ会社が新しく事業を立ち上げたので、やはり〝地域に貢献する〟との思いが設立時のコンセプトとしてありました。地域で発電された電源を仕入れ、地域のために供給する『電力の地産地消』を目指し、創業しました。さらに時代の要請としてクリーンエネルギーで脱炭素化も目的の一つとして電力会社が始動しました。現在の『ホームタウンでんき』の加入者数は約9500件となっています」と述べた。
電力の地産地消では、23年度から栃木市のごみ処理施設「とちぎクリーンプラザ」のごみ焼却発電設備の余剰電力を、栃木市本庁舎に供給する取り組みを始めた。大幅なCO2削減につながる取り組みだ。「ごみを燃やした熱を使って発電した電力をホームタウンエナジーで調達して、それを、市庁舎の電力として販売しています」(同)。
さらに電力の地産地消で、埼玉県久喜市(梅田修一市長)、ホームタウンエナジー、「ケーブルテレビ」の3者は24年11月、官民連携による自治体新電力会社「久喜新電力」(埼玉県久喜市、髙田光浩代表取締役社長)を設立した。
米田努ホームタウンエナジー営業部部長は「『ケーブルテレビ』の放送エリアは栃木県栃木市・壬生町・下野市・上三川町・茂木町、群馬県館林市・板倉町・明和町・邑楽町・千代田町、茨城県古河市、結城市、筑西市、埼玉県久喜市です。放送エリアのひとつ久喜市が地域新電力会社を立ち上げたいという話が出て、パートナーを募集する公募がありホームタウンエナジーも参加したところ、栃木市での取り組みを評価いただいて、選ばれました。25年5月に免許を取得し、9月から電力供給を始めました。将来的には27年4月稼働予定の久喜市の新しいごみ処理施設で発電される電力を『久喜新電力』が買い取り、公共施設を中心とした久喜市内の施設、家庭への電力供給を行っていきます。公共施設を含む市内各所への再生可能エネルギー発電所の設置や、民間企業からの再生可能エネルギー調達等を通して、地域経済の活性化を目指すとともに脱炭素社会の実現に貢献していきます」と話した。
さらにホームタウンエナジーは、「ケーブルテレビ」の放送エリア外である本庄ケーブルテレビ(埼玉県本庄市、戸谷清一代表取締役社長)と24年9月に代理店契約を締結した。25年4月より「ホームタウンでんき」の取り扱いを開始した。本庄ケーブルテレビでは「地域のお客様へ、より喜ばれるサービスをご提供することにより、一層の顧客満足向上と、それをきっかけとした解約抑止に繋がることを期待して取り扱いを決めた」とし、将来的には、この地域における電力の地産地消の実現も目指していくとしている。ここでホームタウンエナジーは直接販売は行わず代理店である「本庄ケーブルテレビ」を通して販売している。
米田氏は「ケーブルテレビ業界にとってこのサービスは非常に親和性が高いし、お客様にとっても喜ばれます。ですから、本庄ケーブルテレビのように地域新電力事業を全国の他のケーブルテレビ事業者にも展開していこうと思っています。さらに、地域新電力事業を自分のところで事業化したいご希望があれば、ホームタウンエナジーのノウハウを提供するコンサルティング事業も進められたらと考えています」と話した。
◇
最後に今後の展開について聞いた。
ホームタウンエナジーは、蓄電池PoC(ポック、「概念実証」のことで、新しい手法などの実現可能性を見出すために、試作開発に入る前の検証を指す)を開始する。これは、一般家庭に設置した蓄電池を遠隔で制御する実証実験だ。ここで卸電力取引市場価格の予測を基に制御し、電力調達コストの削減効果を測定する。実証試験により把握した電力調達コスト削減見込額から割引率を設定した新たな電力料金メニューを作成。蓄電池との同時導入を条件として一般家庭向けにセット販売を行う。26年3月末までに実証実験を終了し、26年度中に蓄電池プラス新電力料金メニューのセット販売を始めたい考えだ。
中沢氏は「具体的には、ホームタウンエナジーで蓄電池の費用を受け持ってお客様宅に設置します。蓄電池を使いながらその回収は電気代の売上で賄います。蓄電池の充電された電気を電力会社が購入する、そして提供するというビジネスモデルです。ある意味、地域を大きな発電所のように見立てる考え方で、そこにチャレンジする考え方です。まずは茨城県結城市で実証実験を開始します。市場価格の予測を元に制御する、要は安い時に充電しておいて高いときに放電しようと。ホームタウンエナジーのサービスは、卸電力取引市場価格で推移するのではなく固定価格で行っていますので、安い時がありません。そこで、市場連動制価格を検討しており、それを適用することによって、安い時にお客様も安い電気料金で電力を買える仕組みを作れば、お客様にとっても非常に良いことだと思っています」と話した。
さらに卒FIT(そつフィット)への取り組みについて説明した。これは、2009年に開始された固定価格買取制度(FIT制度)が、19年以降に満了していくこと。太陽光発電などの再生可能エネルギーによって発電された電力を、電力会社が一定期間・一定価格で買い取ることを国が保証する制度の適用期間が終了することを指す。
「ソーラーパネルが載っているお客様宅で、固定で高く買ってくれた制度が終わった人がいます。将来的には、そういうお客様の電力をホームタウンエナジーが買い取ることも検討しています。お客様のお宅にソーラーパネルを載せて、それを蓄電池に貯めて、使っていない時はこちら側に売ってもらうモデルもできないかと、検討しています」(同)。
写真は 「とちぎクリーンプラザ」外観
この記事を書いた記者
- 元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。
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