【独自】イッツコム法人向けサービスに注目
イッツコムは、1983年の創業時より培ったコンシューマー向け事業を基盤として、トレンドや様々なニーズに合わせた法人向けサービスをワンストップで提供している。同社が提供する法人向けサービスは、データセンターや光ファイバー回線提供などのインフラから業務改善ツールや空間演出ソリューションまで多岐にわたる。
具体的には▽ワークスタイル(Web会議システム、クラウドストレージサービス、名刺管理 MA・SFA、データSIM、モバイル閉域接続)▽オフィス(Wi―Fi、インターネット接続、光ファイバー賃借、ハウジングサービス、ホスティングサービス Mail/Web、ドライブレコーダー)▽防災(「テレビ・プッシュ」、「Dr.BCプッシュ」、緊急地震速報)▽商業施設・公共(デジタルサイネージ、ライブビューイング、公共Wi―Fi、物件予約システム、スペース予約決済システム、「ポケトーク」)―の4つのカテゴリーで提案している。
三宅氏は次のように話した。
「イッツコムの法人向けサービスは、2012年頃から新規事業への取り組みで様々なソリューションの取扱いを始めたのが最初です。それぞれ担当部署が分かれていましたので、17年4月に一本化してアライアンス営業部(当時)が発足しました。それぞれの事業開発部門にあった営業機能を集約しました。その後、18年から東急グループの〝お膝元〟である渋谷の再開発が始まり、新しいビルが次々に建設されて多くの企業が本社を渋谷に移すなどあって、法人向けサービスの通信インフラやデジタルサイネージが多く採用されて、こちらを追い風に同事業が大きく踏み出せました」と話した。
22年には、横浜市と地域BWAの活用で協定を締結し、横浜市のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に役立つ取り組みを進めている。23年には、東急の連結子会社でIoT関連のハードウェア、ソフトウェアの企画開発販売を行っていた「Connected Design」を吸収合併した。このように法人向けサービス事業は規模が拡大して成長し続けている。
さらに「他のケーブルテレビ会社様では、BtoC事業を中心に据えながら、法人向け商材も取り扱っているからプラスアルファとして営業展開しようという位置づけが多いかと思います。私どもは、BtoCとBtoBを両輪で回していく、双方で相乗効果を狙うビジネスを展開しています。その根底として、イッツコムは東急グループの一員であるため、沿線住民、沿線企業の社会的価値向上が重要な要素であるという考え方があります。沿線住民あるいは来街者に我々がICT化を推進して付加価値をつくり提供することで価値向上につなげていく考えです。そういった〝縁の下の力持ち〟としてイッツコムが存在すると、そういう位置づけで我々は取り組んでいます」と述べた。
続いて、IoTソリューションについて、榊原氏と小松氏に話を聞いた。
同社はスマートロックシステム「Connected Portal」(コネクティッド・ポータル)を展開している。これは、スマートロック用の期間限定で使える時限式の鍵をオンライン上から簡単に発行できる入退管理システム。暗証番号での解錠はもちろん時限式のURLキー解錠や予め登録した社員証、交通系ICカードを使って鍵の開け閉めができるシステムで、「鍵の直接受け渡し不要」で業務効率がアップする。
主な特長は次の通り。
▽時限鍵発行=権限特定を行うことで特定の扉・日時のみ扉の開閉ができるようにカスタマイズが可能▽入退履歴の閲覧可能=扉ごとに「いつ」「だれが」「どのように」入退室したか履歴を確認できる。また、入退履歴を出力することもできる③停電・緊急時でも安心=シリンダー錠を残してスマートロックを設置するため、いざという時は物理鍵で解錠が可能。また、電池駆動のため停電時もスマートロックでの解錠が可能。
小松氏は「コネクティッド・ポータルのメインのターゲットは民泊施設やホテル、オフィスです。民泊施設では、お客様の予約日時を登録いただくことで、時限キーをメールで受け渡すことができます。具体的には、お客様からの電話予約やウェブサイトからの予約があった時に施設スタッフ側で予約登録をコネクティッド・ポータル上で行うと、暗証番号が付随する鍵がイッツコムのサーバーから発行されます。例えば夜11時チェックインで翌日の11時チェックアウトといった鍵が発行できます。その予約日時のみ有効な鍵になりますので、予約日時以外にお客様が不正に利用しようとしても、解錠はできません」という。
このほか「個々のスマートロックに対して、入退履歴の閲覧が行えて、停電になった場合も電池式なので解錠動作が可能です。クラウドサービスとの違いは、すでに時限式の鍵が登録済みであれば、インターネットが遮断されたとしても、暗証番号で解錠できる仕組みになっているのでネットワーク障害があっても大丈夫です」と話した。
また「Connected API」は、APIを施設側の予約システムと連携させることで、利用する予約システムをそのままで、時限キー配信が行える。ウェブで様々な宿泊施設の予約サイトがあるが、そこから予約した場合も宿泊施設事業者がイッツコムのシステムと連携していれば、予約に合わせて自動で鍵を発行し、暗証番号をお客様に自動通知して、その情報が自動で鍵に流し込まれる「宿泊施設のDX化が実現したソリューション」になっている。
一方、「Connected Space Share」(コネクティッド・スペース・シェア)は、「LINE」上でレンタルスペースの予約と決済対応を実現したシステム。スマートロックと連携してLINE上で時限鍵の受け渡しが行える。
主な特長は次の通り。
▽LINEアプリ=公式LINEチャンネルを使用でき、予約をきっかけに登録者数を増やし情報発信経路として活用可能▽キャッシュレス決済=任意で決済機能を搭載可能。LINE上で予約から決済まで完結させることが可能(ストライプ社と連携)▽スマートロック連携=時限鍵もLINE上での受け渡しが可能。
利用用途例はマンション等の共用部分の貸出、レンタルスペース等の特定個室の貸出、ワーキングスペースや店舗の一時貸出、フードコート座席予約。
「このサービスは、人を介さずスペースの予約・決済・利用及び解錠をオールインワンで提供します。部屋を選択して、時間を選択して、決済すると当日スマートロックの画面で開け閉めができます。決済はストライプ社と連携しており、同社からオーナーや契約会社に入金されると自動で時限鍵の権限が付与される仕組みです」(榊原氏)。
LINEのアプリを利用するので、新たなアプリをダウンロードする必要がない。
システム管理者も使いやすいUIで、直感的に操作できるシンプルな画面構成となっている。管理者画面からの予約もできるため電話予約受付との併用も可能。スマートロック/カメラ連携も同一システムで可能だ。
導入事例では、商業施設「イオンモール大阪ドームシティ」(大阪府大阪市)でのフードコート座席予約が挙げられる。予約制優先席とサイネージで、安心・分かりやすい座席利用を実現している。ポイントは▽高齢者や子供連れなど席が必要な人が優先的に『ハートフルシート』に予約できる▽サイネージの予約状況のリアルタイム表示により、すぐに空き時間の把握が可能。
榊原氏は「昨年は大阪・関西万博もあって、こちらのフードコートの座席予約が話題になりました。大規模なショッピングモールは土・日はかなり混み合いますが、お子様連れの方は、なかなか座席が空かないと、お子さんが泣いてしまったり、お買い物の時間がなくなってしまったり、そういったお困りに、事前にご予約をいただくこのサービスが非常に好評を得ています」と話した。
続いて、デジタルサイネージソリューションについて、念張氏は「サイネージの構築にはインフォメーション(誘客)/広告/環境演出(建物の象徴)など目的に合わせた企画を検討することが重要となります。イッツコムは、提案する際にお客様とそのサイネージに何を流したいのかはもちろん、どういった目的で設置をしていくのかまでヒアリングをしっかり行っています。これまで培ったノウハウで構築・運用を全面的にサポートします」と話した。
さらにイッツコムのサイネージ事業の強みは「デジタルサイネージ構築支援サービスにおいて、建築計画の段階からサイネージ設置計画策定の支援、構築、コンテンツ制作まで一貫サポートするところです。建築企画・設計の段階より支援することで、スムーズな構築進行を提供します。サイネージの機材採用・調達におけるコンペを実施の際には、これまでの運用ノウハウを基にコンペの仕様作りなどの事務局支援も行います。既存サイネージの改修や広告ボードのサイネージ化なども行っています」と述べた。
ソリューションのラインナップでは、一般的な液晶のサイネージから大型ビジョンで使われるLED製品の提供も行っている。最近は『透過型LED』の引き合いも多いという。『透過型LED』は、画面が透けて背景まで映り込むディスプレイ。「視界を遮断しない」「光を通過させられる」「近未来的なデザイン」などの特徴を持っている。映像などで見せるコンテンツの表示に向いている。
このように、取り扱っているディスプレイスタンドの種類が豊富で、利用する環境など要望にあったスタンドを提案している。また、設置作業も同社で取扱いをしている。
「導入した後、しっかり運用していくことが大事であるとともに、やはり見ていただく方に新鮮な情報をしっかり届けるためには、あまり手間暇かけずに更新ができる方法を採用することがすごく重要になります。お客様の配信・更新方法の考え方でサービスラインナップを揃えています」(念張氏)。
サービスラインナップは次の通り。
▽「イッツコムサイネージ USB」=静止画・動画をUSBに格納、再生設置現場でコンテンツを更新する一番シンプルなサイネージ。ランニング費用も不要▽『イッツコムサイネージ クラウド』=クラウド型だから遠隔更新、複数拠点一括管理と効率的な運用を実現する。静止画・動画をクラウド上にアップし、遠隔でコンテンツ更新が可能。ひとつのPCで複数台数管理が可能で、中小規模の複数拠点でサイネージを設置、管理したい施設・店舗におすすめ▽『イッツコムサイネージ カスタム』=外部情報との連携、空間演出など、お客様の様々なニーズに対しオーダーメードでシステム構築。イッツコムにて運用保守を受託も可能。
「『イッツコムサイネージ USB』は、シンプルなパターンで流したい画像をUSBに格納しディスプレイに差し込み再生します。とりあえず1店舗から入れてみたい、試してみたいといったニーズに応えます。コンテンツの更新頻度が高くなければ、このタイプはそれほど手間がいらないので多くご活用いただいています。『イッツコムサイネージ クラウド』は、距離がある現地まで行って更新するのはなかなか面倒だ、大変だという方に提案しています。離れた場所から更新できる、このほか複数店舗を一括で管理したい方にもこちらのクラウドで叶えられるようになっています。『イッツコムサイネージ カスタム』は、さらにもう少し上位のサービスをしたい方にご用意しています。できることはたくさんありますが、代表的なものは『ホームページ情報連携コンテンツ』。施設のホームページなどと連携して自動でサイネージの放映内容を切り替えます。自動切り替えのため施設担当者の運用負担軽減を実現できます。『災害時放映切替システム』は、施設の防災計画にあわせた災害発生時の情報発報として、防災センター等より情報を入力、もしくは外部情報と連携して自動で表示画面を切り替えます。例えば大地震が発生した際、営業時間を短縮する時には、館内のサイネージを一括で切り替えることができます」(同)。
◇
東急と東急電鉄が進める「サステナブルな地下駅」を目指す田園都市線地下区間5駅(池尻大橋駅~用賀駅)のリニューアルプロジェクト「Green UNDER GROUND」において、2025年3月に竣工した田園都市線駒沢大学駅(東京都世田谷区)の新たな情報発信媒体「GUG PLATFORM」が、2025年6月に開催された「デジタルサイネージアワード2025」(一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム主催)において、優秀賞を受賞した。
このサイネージは、ホームからコンコースまで連動し、改札外通路の「CORRIDOR VISION」、改札内階段正面に設置した「STEPS VISION」、ホーム階の「RAIL VISION」から構成。鉄道運行情報や広告のみならず、地下空間の駅の中でも、地上や地域とのつながりを創造することを目的に、都立駒沢オリンピック公園や周辺のまち並みから着想を得た、約130種類にもおよぶ大小さまざまな多彩なアニメーションを組み合わせ、駒沢大学駅周辺の天気や季節の移ろいに合わせてイラストや色調が変わり、時間帯によってメッセージが変化するオリジナルコンテンツを放映している。
また、「RAIL VISION」は、上下線ホームの天井から下がり壁に設置した全長約90㍍のサイネージで、周辺環境と連動したオリジナルコンテンツを放映するのは全国の駅において初の取り組み。
このほかの導入事例をみると、横浜市のある商業施設では、館内PRボードをデジタルサイネージ化した。もともとアナログのポスターボードだったものをデジタル化したもの。この手の問い合わせは多いという。日々ポスターを更新するのは手間がかかる。ポスターを刷る費用もかかるし、張り替えの作業費もかかる。これをデジタル化することによって張り替えの工数の削減につながる。また、画像がローテーションするので、動きがあるとお客様の目を引き、お客様の見る頻度が上がった事例だ。
二子玉川ライズ(東京都世田谷区)には、屋外ポータブル電源サイネージを設置した。設置環境の制限を受けない、自由で手軽な新しいデジタルサイネージ。バッテリー充電式のためコンセントがない屋外での運用を実現。屋外でのイベント時に活用されている。いろいろなところに自由に移動もできるし、電源がなくてもサイネージでお客様に訴求ができる事例だ。
榊原氏は「渋谷のスクランブル交差点にあるQ,S EYEやアイコニックビジョンなどの大型ビジョンは当社が保守管理・配信運用を行っています。また、東京証券取引所の株価のリング型サイネージについても、システム設計からコンテンツ制作までを手がけました。実は、皆さまが日頃目にするサイネージには、当社の技術が活かされているものが結構あります。これまでさまざまな案件に携わってきましたが、最近、サイネージの役割が変わって、情報発信するだけではなくて、見ていただく方に楽しんでいただきたいというニーズも高く、流すコンテンツも凝ったものが増えてきました。当社はハードウェアの提供に加えて、流すコンテンツもオリジナル作品を制作できるので、ハード・ソフト双方一体で提供ができるのが特長です。これからさらに多様化していくデジタルサイネージの世界で、新しい取り組みを通じて皆さまに価値あるソリューションをご提供していきたいと考えています」と話した。
写真は 駒沢大学駅 改札階サイネージ
この記事を書いた記者
- 元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。
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