CATV会社が山形大と防災アプリ

 ニューメディア(山形県米沢市、金子敦代表)は、山形大学農学部河川環境学研究室と共同で、2024年から河川に安価な水位/気象センサーを設置し、データを取得・活用する研究を続けてきた。このほど、研究室に所属する学生の設計・デザインに基づきニューメディアがテレビ・スマホを対象とした防災アプリの開発を行い、運営実験を始めていく体制が整った。そして、この取り組みに関して、1月29日に酒田市公益研修センター(山形県酒田市)で開かれた「第31回庄内・社会基盤技術フォーラム」でアプリの紹介を行った。
 同研究室の渡邉一哉教授と、アプリの設計・デザインに携わった学生がポスターセッションにて発表した。現在、同大農学部のある山形県鶴岡市内に水位/気象センサーを設置していることから、2026年春を目途に同市内で運営実験を始めるとしている。
 この取り組みの特長は次の通り。
 ▽山形県初の取り組み=スマホアプリだけでなくテレビアプリで防災情報を確認することができるというのは山形県内初の試み。スマホに慣れている若者だけでなく、慣れていない高齢者にも使いやすいアプリを開発した。
 ▽学生が設計・デザイン=アプリの設計・デザインは山形大学河川環境学研究室の学生が主体となって進めた。救助を呼ぶことができる機能など他に類を見ない実用的でユニークなアイデアが組み込まれている。
 ▽安価な防災システム=今回使用しているセンサーやカメラは安価なものを利用している。当初は鶴岡市内で運営実験を開始する予定だが、ほかの自治体でも低予算で導入しやすい防災システムを目指している。
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 「第31回庄内・社会基盤技術フォーラム」で紹介されたのは、両者による「小水域・小集落を対象とした新たな防災・避災システムの提案」。研究背景は次の通り。
 近年頻発する水災害において、高齢者の被災が大きな課題となっている。この要因として自然・行政・住民の間で災害の情報や認知が十分に行きわたっていない点が挙げられる。特に、小集落・小水域単位での水文情報の把握不足と情報提供の不整合が、災害への関心低下や備えの不備につながっている。これらが重なり合い、災害弱者が形成されている。
 両者は「背景には、災害の変化に対応できていない現状、自然への関心の低さと自助力・互助力の低下がある。具体的には、小集落・小水域におけるモニタリング環境が不足している。行政による小集落・小水域における情報の蓄積が不足している。小集落では情報取得が困難な高齢者層が集中している。こういったことから①高齢者が日常的に防災情報へ触れやすい環境の構築②発災時における情報の受信・発信を両立する仕組みの検討③操作習熟を前提とした使いやすい情報ツールの設計④家族・地域での声掛けを促す情報連携の可能性の検討―を進めた」という。
 調査地は鶴岡市上名川集落を貫通する早田川で、ターゲットは集落に住む高齢者、サブターゲットは集落外に住む家族。使用するセンサー及びデータ送信条件は、導入コストが低く設置が容易で、必要十分な精度をもつ。Wi―Fiでデータ送信でき、設置場所の制約が少ないこと。なお、使用したセンサーの開発・改良は株式会社farmoの協力を得た。
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 開発したアプリケーションをみると、ケーブルテレビでは河川カメラや河川の水位情報、避難所の位置、まちからのお知らせのメニューで、危険時には表示が変更。リモコンの十字ボタン、決定ボタンのみで操作が可能という簡単操作となっている。
 日常から情報取得できる。通常の放送とともに災害情報に触れられる。スマートフォンのアプリへの接続も行える。同一情報の提供により、スマートフォン使用への抵抗を減らす。
 「ケーブルテレビのアプリでは、日常的に情報に触れる機会が増加し、防災意識向上につながる身近なツールとなっている。高齢者にとって使い慣れないスマートフォンを使うきっかけとなる工夫が施されている」。
 一方、スマートフォンでは、メニューはケーブルテレビと同様で、危険時には表示が変更し、タップ操作のみで、高齢者の誤動作・誤発信を減らす簡単操作となっている。
 発信用「たすけてボタン」を設置した。ボタンを押すだけで助けを求められる。アラート音を鳴らし居場所を知らせる。緊急連絡先に電話をかける。集落外の家族が救助を依頼できる。
 「スマートフォンアプリは、持ち運びができる点や、緊急時に簡単な操作でユーザー側から発信が可能なツールで、平常時からデバイスに触れることで習熟度の向上を図る工夫が施されている」。
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 電波タイムスは、庄内フォーラムポスター発表での来場者の感想を担当者に聞いた。
 山形大学農学部河川環境学研究室3年の西村颯姫さんは次のように話した。
 ポスター発表には、地域防災や家族の安全に関心を持つ多くの方が足を運んでくださいました。
 高齢者を助けるために実際に現地へ向かった経験のある自治会長の方や、離れて暮らす親の近くで河川氾濫の不安を感じたことがある方など、それぞれの立場から本システムに関心が寄せられ、現場の声を直接聞くことで、今後はこうした利用者の視点をより意識して本研究に反映していく必要があると感じました。
 実際にアプリケーションを操作した来場者からは、「使いやすい」「直感的で分かりやすい」といった声に加え、「こういうシステムがあるなら、ぜひ導入したい」という前向きな反応も多くありました。防災情報を多くの人に届けるため、操作性の良さを強みとして提供情報の内容や伝え方をさらに工夫していきたいと考えました。
 また、行政関係者からは導入コストの低さが評価されるなど、導入面での現実性について前向きな意見が得られました。一方で、テレビからの情報発信機能の要望や、今後の維持管理のあり方など、運用面に関する意見も寄せられ、機能面だけでなく現実的な導入を見据えて検討を進める必要性を意識しました。
 全体として、本システムが家族や地域の安心につながる仕組みとして、実際の現場で役立つものとなるよう、利用者の声を取り入れながら改良を重ねていきたいとの思いを新たにしました。

写真は ポスターセッション(ニューメディア提供)

この記事を書いた記者

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田畑広実
元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。