実録・戦後放送史 第56回
「村岡花子さんの登場」
第1部 放送民主化の夜明け(昭和25年)
公聴会では、続いて村岡花子さんが登場。
村岡さんは「私は主婦でございまして家事の合い間にものを書いている者でございます」とご本人は謙遜して言われたが、戦時から戦後にかけて、しばしばラジオに出演し、そのやわらかな語調と、わかり易い評論は大人にも子供にも親しまれていた。
「川島教授はただ今、この放送法案には絶対反対だと、爆弾的発言をされましたが、私は非常にものやわらかに始めます」
そういいながら論調は、きわめてキッパリとして、どちらかといえば村岡さんらしくなかった。
「私は放送法ができることについては賛成いたします。まず結論としてこのことを申しておきます。
法案の第一条に示されてあります通り、放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすこと。
放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること。
さらに、放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにするのが、この法案の目的であります以上、この目的を額面通りに受け取りますれば、この法律ができることで、私ども国民の幸福が増すわけであり、国民はこの法律の成立によって自由な、伸び伸びとした放送を耳にして、啓発と、報道と、慰安と、娯楽とを十分に受け得ることを約束されるわけであります。
この意味におきましては、放送法案の成立は喜ばしいことでありましょう。私は放送のあるべき姿としてうたわれているいわゆる「不偏不党」の純粋なる立場において、私もこの法律の成立そのことには賛成でありますが、現在の法案の内容につきましては、幾分の疑いと不安とを持つものであります。
まず意外に感じた点は、それが「公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信」という、きわめて一般的な意味の説明で規定されている放送に対する法律でありながら、ほとんどすべては、現在のNHKなる社団法人のあとを引き継ごうとしている、日本放送協会のあり方を規定することに終始している点であります」
村岡さんは語を継いで「私たち国民がと申しますと、むしろ言葉がいかめしくなります。私たちの家庭で楽しんで期待している民間放送、無料で聞けるあの民間放送局に対しては、ただ第三章で二項目をあげております以外には何もないことが、いささかふしぎの感を抱かせるのであります。
もちろん現在のところ、波長の関係などから、民間放送の範囲はそれほど大きなものでありますまい。
しかしながら商業放送の進歩のための規定と保護、そういうものがある程度設けられてあるべきはずだと思われるのであります」
このように前置きし、放送番組について「この法律の運用によって、はたして表現の自由化に難しいかということを考えざるを得ない」と懸念を表明した。難しいかということを考えざるを得ない」と懸念を表明した。そして、 「NHKに新しく生まれる経営委員会が、全国民、全家庭の代表としての機能が十分に発揮できるのかどうか心配だ」と結んだ。 (第57回に続く)
この記事を書いた記者
- 放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。
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阿川 秀雄

阿川 秀雄
1917年(大正6年)~2005年(平成17年)
昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。
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