実録・戦後放送史 第108回
「テレビ標準方式を巡るメガ論争①」
第3部 テレビ放送波乱の幕開け(昭和26年)
やがてこの年の11月を迎え、電波監理委員会は、テレビジョンの標準方式(案)を発表したが、これが有名な〝メガ論争〟に発展するのである。
いうまでもなくテレビの映像は電波に乗せて送られる。その送りの方法は列車のレールの幅と同じで、専門的にいえば周波数の帯域幅(幅の広さ)ということになるが、この幅を何メガヘルツとするかがもっとも注目された。鉄道でいう広軌がよいか、狭軌がいいのかという議論と同じである。日本の国鉄は明治時代に英国式の狭軌を採用したことが、のちに議論の対象となった。したがってテレビの場合も同じで、周波数の幅をいくらに取るかによって、送る絵や音声などに影響をきたすという議論であった。
この周波数の幅についてNHKやメーカー等が〝かたず〟をのんで見守る中、電波監理委員会は、昭和26年11月「白黒テレビジョン放送に関する送信の標準方式」(案)を発表、この案について利害関係者の意見を聞くための聴聞を27年1月17日から19日までの3日間にわたって開催すると公表した。
この「標準方式」(案)とは次のような内容であった。
一、用語の定義=
①「走査」とは、画面を構成する絵素の輝度にしたがって、一定の方法により、画面を逐次分析して行くことをいう
②「映像信号」とは、走査にしたがって生ずる直接的の電気的変化であって、静止又は移動する事物の瞬間的映像を伝送するためのものをいう
③「音声信号」とは、音声その他の音響にしたがって生ずる直接的の電気的変化であって、音声その他の音響を伝送するためのものをいう
④「同期信号」とは、映像を同期させるために伝送する信号をいう⑤「映像信号搬送波」「音声信号搬送波」とは、それぞれの信号を伝送する搬送波をいう
⑥「プレエンファシス」とは、正常の信号波をその周波数帯のある部分について、他の部分に比し、特に強めることをいう
とあり、問題の「周波数帯幅及び周波数の配置」については、テレビジョン放送に使用する周波数帯幅は6000KC(注・6メガ)とする(中略)とあり、音声信号の変調方式は周波数変調方式(FM)とし、「同期信号」は電源周波数に対して「非同期」とする。
また「走査」については、
①映像の走査は、水平方向には左から右へ、垂直方向は上から下へ一定速度で行うものとする
②伝送される映像の数は毎秒三〇とする
③一の映像の走査線数は五二五本とし、且つ一本置きに飛び越して走査するものとする
④映像の画面と縦と横の比は四対三とする
これはアメリカ方式とほぼ同じである。
(第109回に続く)
阿川 秀雄

阿川 秀雄
1917年(大正6年)~2005年(平成17年)
昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。
本企画をご覧いただいた皆様からの
感想をお待ちしております!
下記メールアドレスまでお送りください。