実録・戦後放送史 第109回
「テレビ標準方式を巡るメガ論争②」
第3部 テレビ放送波乱の幕開け(昭和26年)
私は「標準方式」(案)が発表されるのを待って、無線通信機械工業会の橘弘作副会長(ビクター)、理事、小林宏治(NEC常務)、須子信一(コロムビア)、笠原功一(ソニー)の各氏を招いて、電波タイムス社で座談会を開き、意見を聞いてみたのであるが、各氏とも原案に反対であった。
この座談会は、実をいうと「私の勉強会」でもあった。そのためもあって、「なぜ6メガ」に反対するのかの理由について、しつこく聞いてみた。アメリカではすでに六メガで実施しているではないか等々を。橘氏や小林氏は、私の質問に答えて「それはその通りであるが、天然色テレビに移るときにバンド幅が狭いと良好な画質を得られない。アメリカでも現在それで困っている。もう一つの理由は六メガを含むアメリカ式を採用すると、ほとんどすべての面で向こう(アメリカ)の特許に抵触する。したがって受信機の製作から販売にいたるまで特許料を支払わなければならなくなる。そのため国民は高い受像機を買わされることになるから」というわかり易い説明であった。技術的なことをまったく知らない私でも、この説明でよくわかったような気がした。
6メガ方式とは即アメリカ方式だから、この方式を採用することが、日本にとって、いかに不利な結果になるか。これは鉄道の広軌と狭軌の違いなどよりも、もっと極端で、メーカーの人々の話が事実とするならば、この点を新聞の紙面を使って周知啓蒙する必要があると、そのとき考えた。
しかし、そのような明白な理由があるのに、なぜ電波監理委員会はこのような方式を採用しようと考えたのか、行政当局の意見も聞いてみる必要があった。そこで私は、この方式案の立案者といわれた甘利省吾電波部長に面会を求め「何故このような方式を採用したのか」と質問した。
「いろいろと意見のあることは承知しているが、要は、早く普及させるためならば長い実績のあるアメリカ方式によることが早道である。周波数の幅についても、日本に実績や経験もなく、アメリカでは六メガ帯で十分実用化しており、何ら問題はない」
甘利部長はこのように答え、原案が現状にもっとも適している、と強調してゆずらなかった。私のような門外漢(もんがいかん)の出る幕ではないし、だまって甘利さんの説明を聞き、これをコラム欄で報道する以外になかった。
(110回に続く)
阿川 秀雄

阿川 秀雄
1917年(大正6年)~2005年(平成17年)
昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。
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