実録・戦後放送史- 電波取材に生涯を捧げた 記者・阿川秀雄の記録 -


実録・戦後放送史 第124回

「NHKか日本テレビか④」

第3部 テレビ放送波乱の幕開け(昭和27年)

  満天下の耳目を集めたと形容してよいような、わが国テレビジョンの初免許をめぐる経緯を紹介してきたが、この項を閉ずるに当たって、電波監理委員会が、どのような方針で免許したかについて最も重要な部分を以下に明記して置きたい(以下原文のまま)。

 わが国におけるテレビジョン放送実施に対する電波監理委員会の方針並びに措置(昭和27年7月31日)

第一(方針)
1、テレビジョン放送事業は独占であってはならない。現行の電波法及び放送法は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように放送を行うことを使命とする日本放送協会の設立を認めるとともに、何人といえども法律の定める要件と基準とに従う限り、放送局の開設につき免許をうけることができることとして、放送事業の経営を広く国民に開放し、これにより旧来のように放送の独占による弊害を防ぎつつ、他面国民の創意と工夫により多彩な放送局の開設と運営によって、放送を通じ、国民の思想、文化、経済の上に限りなき恩恵を及ぼさんことを期しているのである。
 この放送法及び電波法の基本原則は、そのままテレビジョン放送事業にあてはまるのであって、ことにテレビ放送が、いわゆるマスコミュニケーションの究極のものとして、きわめて力強い影響力を国民に及ぼすものであることを考えれば、言論、表現の独占を強く排除する趣旨において、テレビ放送事業は日本放送協会によるものと民営によるものとの併存を認め、一企業の独占に終わることは、つとめてこれをしりぞけなければならない。
 しかしながら、テレビ放送に使用しうべき周波数に限りがあることと、この事業の開設と運営とには巨額の資金を必要とすることから、経過的には、ある地域においては一企業形態の独占となることもあるかと思われるが、電波監理委員会としては、なるべく速やかに独占を排し複数の局が開設されることを要望するものである。

2、わが国におけるテレビジョン放送局の置局については、さしむき東京は二局ないし三局、その他の都市においては一局又は二局を適当と認め、日本放送協会の放送局と民営の放送局との併存を原則とする。

3、周波数については六メガにすれば四つのチャンネルが認められ、七メガにすれば三チャンネルの使用が可能であるが、四チャンネルを使用することによって東京三局、その他の都市に各二局として全国三十数都市においてテレビ放送が実施できる。また、将来周波数事情が許せば「多局化」の可能性を予測すると共に、中継には、近い将来マイクロウェーブを使用することが望まれる。
 以上の方針(原則)に基づいて電波監理委員会は、免許の措置、審査基準等を次のように明らかにしている。

第二(措置)
 述上の方針に基づき、電波監理委員会は、テレビジョン放送局開設の諸申請を検討した結果、次に掲げるような結論に達したのである。

一、全日本放送株式会社には、予備免許を与えない(理由 当該業務を維持するに足る財政的基礎及び事業遂行能力において充分とは考えられない。以下略)

二、株式会社日本テレビジョン放送協会には予備免許を与えない(理由はほぼ前に同じ)。

三、日本テレビ放送網株式会社に予備免許を与える。(理由 1・工事設計は、法律及び規則に定める技術基準に適合している。2・財界及び実業界の代表的人物三十数人の支持を受け、それぞれ出資確認書を提出済であって、かつ、事業運営のための広告料収入についても確実な見通しがあり、事業を推進するに足りる財政的基礎が十分と認められる。3・周波数の割当が可能である。4・その他テレビジョン放送局開設の根本的基準に合致している)

四、日本放送協会(NHK)に予備免許を与える決定を留保する。
(理由 日本放送協会がテレビジョン放送を東京において実施することは、方針に明示したように当然のことと考えるのであるが、①実施の要件である財政的基礎は、放送法第三十七条によって、実施に必要である協会の収支予算、事業計画、資金計画が国会の承認を得てはじめて確立されるものであって、それがなされていない現在としては予備免許を与えることは適当でない。②テレビ放送は、先ず東京において実施することを適当としているので、協会の事業計画及び収支予算等の現申請は全国的となっているので、東京に限定して、その計画を変更すべきである。③NHKが送信所に予定している愛宕山は、目下駐留軍の施設となっているので、その返還について確実な見通しがついてから(別途)計画すべきである。④NHKの本年度(二十七年度)事業計画は、テレビジョンを考慮せずに樹立されている。また本年度予算はラジオ放送のみに限っている。またテレビ事業を二十八年四月から実施する計画となっているが、二十八年度の運営費は借入金や放送債券によるものであって、受信料収入をもってしては運用費をまかない得ないと考えられるので、財政的基礎が十分でない)

 一方のラジオ東京については経済的、財政的見地から、また現在の周波数事情等から今回は免許を留保する。中部日本放送は、申請書が提出されたばかりであり審査を完了していない。ただ両社とも近い将来(当然)免許されてしかるべきであろう、と結んでいる。 

 かくて電波監理委員会は昭和27年7月31日をもって解散した。
(第125回に続く)

阿川 秀雄

阿川 秀雄

1917年(大正6年)~2005年(平成17年)

昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。

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