実録・戦後放送史 第153回
「カラーテレビの登場⑦」
第4部 テレビ普及に向けた動き
国会におけるカラー問題の調査は衆議院逓信委員会で終わったわけではなく、自民党通信部会、参院逓信委員会も参考人を喚問して審議を進めた。
2月9、10日の衆議院逓信委員会に引き続き自民党政調通信部会も、現状を捨てておけないとあって、2月23日午後2時から都市センターにラジオ東京常務の遠藤幸吉、NTV清水与七郎社長、林龍雄(関西テレビ技術局長)、福田英雄(フジテレビ編成局長)および森本重武(日本教育テレビ常務)、深水六郎(ラジオ熊本社長)の各氏ら民間放送幹部を招いて、カラーテレビ実施についての考え方を聞いている。
まず遠藤氏は「国民のカラーテレビへの関心と期待は大きいが、現在のところ十分な色彩が得られていないこと、また受像機も一般の入手が困難なところから、さらに問題点を研究し、実情をよく確認してから始めるのが適当と思う」
フジテレビの福田氏は「当社でも、いずれはカラーテレビ時代が来ることを予測して準備はしているが、今すぐにやろうとは考えていない。アメリカでさえ伸び悩んでいるものを早急に実施することには反対だ。むしろわれわれとしては現在の白黒テレビの普及と番組の質を高めることに努力したい」
深水六郎氏は「まだ白黒テレビを始めたばかりであり、とくに熊本のような地域ではカラーなど問題にならない。要は北海道から九州にいたるまで実験を行って、受け入れ態勢等もよく調査することが先決だ。急ぐのなら東京、大阪等だけで実施すべきだ。われわれ地方民放にはまだ白黒の償却さえ残っている状況だ」
林龍雄氏が「私もカラーテレビ調査会のメンバーであるが、われわれの答申(中間報告)は早急に実施するとしたらNTSCしかないということであって、これを無条件で推したわけではない。現在、白黒テレビの経営さえ(地方局では)安心できる状況にない。むしろ現段階としては白黒の中継局やブースターの増設など難視聴解消が先決だ」
森本氏は、CCIR(国際無線通信諮問委員会)会議の実状や欧州視察の結果などを踏まえ「現在カラーを実施している国はアメリカだけであり、しかも普及の速度が遅いことを直視すべきだ。急いで一社や二社が始めても、急速な普及は見込めない。また番組も十分でなく、経済性、放送界の現状をよく把握してから方針(実施)を考えるべきである」との理論を展開した。
このような意見に対して、NTVの清水氏は「われわれは、日本におけるカラーテレビは、すでに実施の段階に達していると考えている」と前置き、その理由として①カラーテレビ調査会もNTSC方式を最適といっている②受像機についても画面は安定し、両立方式による白黒の画質低下も改善されており③メーカーの生産態勢もすでに整っているし、受信機の価格も徐々に低廉化の見通しにある④カラーテレビの実施は我が国電子工業の発展に寄与すること大である、とし、以上の理由から、「NTVとしては一刻も速やかな実施を希望する。既に二年間の実験結果からしても何ら問題はない」と主張した。
このように国会や自民党などでカラーテレビ実施をめぐって議論が沸騰しているとき、私はこの問題にもっとも深い関係を持つ受信機メーカーや販売業者等14社で構成している「市場安定協議会」の第六委員会(カラーテレビ担当)から総括的な話を聞きたいと思い、そこの委員長をしていた日本ビクターの山口勝寿取締役営業部長を訪ねた。業界の真意を聞くためであった。すると山口さんは「最近の新聞記事の扱いがまちまちで国民をまどわしている。失礼ながらマスコミは業界の実状を正しく報道してくれていません。これはわれわれ業界の責任もあると思いますので、業界の統一見解というか現状を報道各社に聞いて頂く機会を得たいと思っていたところです」と言う。
阿川 秀雄
阿川 秀雄
1917年(大正6年)~2005年(平成17年)
昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。
本企画をご覧いただいた皆様からの
感想をお待ちしております!
下記メールアドレスまでお送りください。