実録・戦後放送史 第156回
「カラーテレビの登場⑬」
第4部 テレビ普及に向けた動き
カラーテレビジョン関係省令改正を巡る聴聞に出席した電電公社の石川技師長は、これに要する日時と建設費等について次のように説明した。
「ご参考までに東京―大阪、大阪―福岡、あるいは東京―札幌間にカラーテレビ中継のための恒久回線を設備する場合、その日時と経費を概算すると、①東京―大阪間では2年6カ月を要し、その経費は16億円②大阪―福岡が2年5カ月で15億円③東京―札幌間で2年6カ月かかり、この費用は約16億円という膨大なものとなる。
しかも、このような経費は公社予算の現状からして自由になるものではなく、仮に暫定施設をつくるとしても出入端局、STリンク、中継機の位相の設備などに相当の手数と経費が必要となる。しかも暫定施設では、決して満足な画質が得られないので、公社としては、やるならば恒久的な本格的施設をつくる必要があると考えている。
同時に、われわれとして思うのは、これだけの施設をしてまで、今すぐカラーテレビを国民全体のものとして(全国的に)実施する必要がおありになるのかお伺いしたい。というのは現在の経済的見地から考えて一部の人のためにこれだけの施設をつくることは全く不経済そのものである。さらに現在発展途上にある白黒テレビの全国普及を進める上に、また事業の将来にも重大な支障を与えることになると思うからである。
結論としていえば、公社はカラーテレビそのものに反対するものではないが、それには今述べた点を十分考慮して実施の時期を定めていただきたいということである。あえていえば以上申し上げた理由から、われわれとしては、早期に実施する必要がどこにあるのか理解に苦しむものであり、率直に『時期尚早』であると申し上げておく。
次に『無線設備規則』改正案であるが、この規則が電波行政にとって、いかに重要かつ必要なものであるかは理解しているが、今回の改正では全通信回線に対しても品質を規制することになる。これは強いていえば、電波行政の重大なる変更といわざるを得ない。したがって『品質』をも設備規則に入れるとなると、これは電気通信事業への重大な介入であるばかりでなく、公社事業に対する規制であり行き過ぎである。
公社としては、このような規則がなくとも良質なサービスについては、当然の義務として実施しているので、あえて規則化すべきではないと考える。また条文の中に『指針として』とあるが、これは勧告事項ではないか。さらにテレビの中継技術については、国際的にもなお研究すべき点が多々あり、電電公社としても今後これらについては、回線設計等についても個々に検討研究しているので、今ただちにこのような規則を設けることには異議を持っている」
以上で石川氏の冒頭陳述は終わったが、随所に標準方式の決定と、この実施について(郵政省の方針に)疑問符を投げかけ、逆に当局の姿勢をただす質問が数多く展開され、審理官が膝を乗り出す場面がしばしばあった。
続いての参考人は日本民間放送連盟を代表して北海道放送専務の室谷邦夷氏だった。室谷氏は「民放連の一致した意見」と前置いて、①まずカラーテレビ免許にしても、諸手続きの簡略化を図ること②放送と他の無線局とは性格が異るから別個の規則にしてもらいたい③NTSC方式は、アメリカが強引に決めたものだが、各国ともまだ議論の余地があるといっており、日本がアメリカ方式に従うことにも問題がある。アメリカが両立方式にしたのは既に3千万台も普及している白黒セットを無視できないので(またコマーシャルベースにも乗せられるところから)この方式を採用したのであるが、いかにもセット(受像機)が高額なため普及に困難をきたしている。
郵政省は送信について熱心に研究しているようだが、受信面についても十分な検討を行い、画質、価格の面を考慮して将来、混乱が起きないような努力をすべきである。電電公社でも本放送の時期について慎重論を述べているように、この点特段の配慮を要望する」と結んだ。
阿川 秀雄
阿川 秀雄
1917年(大正6年)~2005年(平成17年)
昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。
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