実録・戦後放送史- 電波取材に生涯を捧げた 記者・阿川秀雄の記録 -


実録・戦後放送史 第159回

「カラーテレビの登場⑭」

第4部 テレビ普及に向けた動き

 さて、カラーテレビジョン関係省令改正を巡る聴聞2日目の13日は、中西、公平両審理官の特別のはからいで、利害関係者から自由な発言と質問を許した。

 このため全国各地の民放関係者が待ちかねたように一斉に発言を求め、議論を展開していった。ラジオ中国(大原氏)、NTV(山際氏)、ラジオ東京(遠藤氏)、CBC(小島氏)、RKB(白石氏)らが交々起ち、主として「実施の時期」について、おのおのの考えを主張し、あるいはこれに対する甲論乙駁、果ては感情まで交えて会場は騒然となった。
 これらの中でRKBの白石氏は「本日の議論は放送事業者ばかりである。強いて言えばカラーテレビは放送事業者だけのものではない。むしろ視聴者国民の意見を聴くべきである」と審理官に迫る場面があった。これに対して中西審理官は「参考人の申請があればこれを認める。また重要な議案であるので十分時間をかけるにやぶさかでない」と答えたため、なんとかこの場を収拾できたという一幕もあってから、3日目の14日には毎日放送の高橋信三専務と甘利電波監理局長との間に次のような質疑が展開された。

 高橋氏「郵政省は方式決定即本放送実施と考えているようだが、その理由は何か。」

 甘利局長「諸般の情勢から実施の時期に来たと考えている。その一つの理由としてNHKに、その準備状況、研究の実情を聞いたところ『いつ本放送に切り替えてもよい』ということだった。また民放事業者からも強い要望もあり、民放は自社の経営も考えて、やりたいところから自主的判断でやればよいと思う。」

 高橋氏「受像機の普及状況を考えて暫く実用化試験局としたらどうか。」

 甘利局長「受信機の生産面を考えると試験局などでは力が入らないと思う。」

 そこで高橋氏は、NHKに質問の矢を向け「民放連の大半の意見は実施には時期尚早である。そこでお伺いしたいが、NHKは民放がやらなくても本放送に踏み切る考えか」と質した。これに答えてNHK田辺技術局長は「NHKとしては長期にわたる実験研究の結果、いつ本放送に入ってもよい状況にある。但しNHKの経営は受信料を基盤としているので、今すぐカラー放送に多額の経費を注ぎこむことはできない。また現在の白黒受信者にも迷惑をかけぬよう十分な配慮が必要だ。したがって本放送といっても、いまのところは『実験局の延長』くらいに考えている」

 さらに高橋氏が「NHKは教育テレビとカラーのいずれを優先的に考えているか」と突っ込むと田辺氏は「もちろん教育局が優先である」との考えを示した。さらに、高橋氏はラジオ東京の遠藤氏に向かって「ラジオ東京は暫定方式を主張しているが、暫定方式でも本放送を始める考えか」ときわどい質問に転じた。それに対して遠藤氏は「当社としては、あくまで暫定方式を主張しており、本放送などは時期尚早だ」と首尾一貫していた。 

阿川 秀雄

阿川 秀雄

1917年(大正6年)~2005年(平成17年)

昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。

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