実録・戦後放送史- 電波取材に生涯を捧げた 記者・阿川秀雄の記録 -


実録・戦後放送史 第157回

「カラーテレビの登場⑫」

第4部 テレビ普及に向けた動き
 四月十三日より四日間にわたり利害関係者を招いて開かれたカラーテレビジョン関係省令改正についての聴聞では、次いで電子機械工業会を代表して高柳健次郎氏が総括的な冒頭陳述を行い、メーカー全体の考えを明らかにした。同工業会の鈴木技術課長が補足説明に起ち「工業会としては実施そのものには反対ではないが、早期実施という点についていえば送、受信機が安易に量産されるように思われては困る」と、現実的な意見を述べると同時に、「いま直ちに標準方式を決める必要がある」という当局の考えについて、その理由を聞きたい、と質問した。
 要するに工業会(高柳氏)としては、現段階ではVHF帯によるNTSC方式が、他よりもベターであることは承知しているものの、もし将来これよりも秀れた方式が出現する場合も考慮して、方式決定即本放送実施ということには、特に慎重を期すべしとする主張だった。NHK、電子機械工業会に続いての冒頭陳述は、NTV(日本テレビ)の清水与七郎氏とYTV(読売テレビ)技術局長の木村六郎氏。この両者は同じ系列でありカラーテレビ実施の急進論者だったから、いずれも郵政省原案(標準方式等)に全面的賛成を述べると同時に、「一日も速やかな本放送の許可」を求める発言を行い、とくに清水氏(NTV)にいたっては「さきの白黒テレビの時も時期尚早といわれる中で(われわれは)スタートを切ったが、これに見事成功している。放送事業者は泣きごとを言わず、歯を食いしばっても実行に踏み切るべきだ」と大見得を切った。これに対してラジオ東京の遠藤氏は「われわれは出来ないなどと言っているのではなく、諸準備を整えるため慎重を期したいと言っているんだ」とやり返す一幕もあった。これは低調ぎみの聴聞会場の眠気を醒ますために効果があったような気がある。
 こうしたやりとりがあったあと、場内を傾聴させたのは電電公社の石川技師長のカラーテレビ中継用マイクロウェーブについての現状説明と、カラーテレビ時期尚早を訴える陳述だった。
 電電公社(石川技師長)
 「電電公社は今回のカラーテレビに関する方式の決定および本放送の時期について重大な関心をもっている。それは、この方式の決定によって『中継線対策に重大な影響をもたらすことになるからである』と前置きし、すでに公社としては、これまでテレビ中継線の建設に約百億の設備投資をしており、さらにまだ地方から要求がある現状である。
 そこへさらにカラーが実施されることになり、新しい設備を要求されるとなると影響されるところが如何に大きいか考慮されたい。カラーTV調査会は、今すぐ実施するならNTSC方式がよいと言っているが、この方式は中継において非常にきびしい電気的技術を要求される。受像機の調整という問題もあるが、NTSC方式の不都合な点は中継の場合①出入端局装置②STリンク等において現在の施設に二重三重の設備をしなければならぬことで、これはそう簡単には出来ない。
 また、一般通信等のサービスを切断することなく新設備をすることは非常に困難である。いずれはカラーに移行するということは考えているが、それには実施の時期等を慎重に検討してもらいたい。」
 このように言ってから石川技師長は「もしこの方式が決定した場合、NHKがどのような順序で放送を実施していかれるのか、そのへんを明らかにしてほしい。おそらくNHKは、その使命から考えて東京、大阪だけに限定するわけにはまいらぬと思う。この点を当局もNHKも十分考慮されることを要望する」とした。(第158回に続く)

阿川 秀雄

阿川 秀雄

1917年(大正6年)~2005年(平成17年)

昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。

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