実録・戦後放送史- 電波取材に生涯を捧げた 記者・阿川秀雄の記録 -


実録・戦後放送史 第160回

「カラーテレビの登場⑮」

第4部 テレビ普及に向けた動き

 カラーテレビジョン関係省令改正を巡る聴聞では、2日目(13日)の午後、参考人として小出栄一(通産省重工業局長)、河口静夫(広告主協会副会長)、飯野毅夫(電波監理審議会委員)、抜山平一(電波技術審議会会長)ら4氏が次のようにそれぞれ意見を述べている。

 まず、小出氏は「国内メーカーは何れはカラーテレビ時代が到来するとの考えで研究に入っている。もちろん標準方式の問題はあるが、今はほとんどNTSC方式を前提にしている。通産省としては現状からやむを得ないと考える。また実施の段階になれば、受像機の国産化を進めねばならぬので、その助成措置も考えている。しかし量産に入るのは将来であるから、生産体制が整うまでは、本放送の実施にはある程度の期間を設けたほうがよい。
 なお当面は技術、部品等の輸入は、ある程度必要だが、近い将来にはすべて国産化するよう指導していきたい」とし受像機等の生産面について
 「①現時点における国内のテレビ生産は、白黒テレビにおいては約20社が、またカラーのメーカーは約十社である。カラー受像機の生産能力は、今のところ需要の見通しとも関連するが、今年度は上半期に約800台、下半期から来年にかけて約数千台になると思う。
 ②次に価格の問題は、量産次第で安くなると思うが、現在アメリカでも21型が440ドルであり、これに輸入関税、物品税等を加えるとかなりの額になるし、また国産品でも約40万円前後である。
 ③特許関係については、RCAとフィリップス社と契約をしなければならないが、ブラウン管については、もう改めて契約の必要はない。
 ④放送機器については、生産に積極的に協力し、将来は輸出もできるようにしたい。いずれにしても現在のところ受信機は輸入品のほうが安いが、政府としては補助金等により国産品の低廉化を図り、輸入を防止したい」と語り、物品税の減額等についても努力中である」と述べた。

 次に河口氏は「広告主協会の立場からいえば、広告的価値としてはカラーテレビに優るものはないと思っている。つまり電波を媒体とする広告のイメージとして、これほど適しているものはない。ただその価値については未知数であるので物理的には申し上げられないが「両立式」のテレビが出現し「白黒」と併用できるというこの方針は結構のことと思う。カラーテレビの普及は、広告活動が活発になり(民放各社が設備をすれば)われわれには負担能力もあり、しかもこれは白黒で実証ずみだ」とカラーテレビを礼賛している。

 飯野氏は「①一般視聴者からみれば、カラーテレビは高嶺の花だ②また「両立式」というと一般人は白黒セットでカラーが視られると思っているかもしれないので、この辺の啓蒙がまず必要であろう。将来は当然セットも安くなるだろうし、番組も豊富になろうが、現実は違う。
 現状では一部の者だけが本放送実施を主張しているが、受信機の価格等を考えると、カラーは『即国民のものではない』と思う。郵政省もこのあたりをよく考えて実施は遅らせるべきだ。
 郵政省がもし方式決定と即実施(許可)が不可分のように考えているとしたら、それには疑義の余地があるし『やりたいものがやれ』というのは行政の本質とは言えまい」とした。

阿川 秀雄

阿川 秀雄

1917年(大正6年)~2005年(平成17年)

昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。

是非、感想をお寄せください

本企画をご覧いただいた皆様からの
感想をお待ちしております!
下記メールアドレスまでお送りください。