実録・戦後放送史- 電波取材に生涯を捧げた 記者・阿川秀雄の記録 -


実録・戦後放送史 第162回

「カラーテレビの登場⑰」

第4部 テレビ普及に向けた動き
聴聞における参考人の陳述が終わり、カラーテレビ実施のため三省令改正を諮問した理由などを述べるなかで、甘利電波監理局長は、カラー放送実施の利点として「NTSC方式はVHF電波をそのまま使うコンパチブル方式であるから、新しいチャンネルを必要としない。したがって白黒の普及にも支障はない。これは電波の有効利用にも役立つものと考えている」と述べたあと、何故早期に実施するのかについて、『現在の実験局は既に研究の結果、実質的には『本放送』と変わりがない。また世界のすう勢もNTSC方式並びにこれに準ずる方式にしぼられてきているので、わが国においても(生産を刺戟する上からも)このような目標は早期に示したほうがよいと考える。
 暫定方式論に対して、この方式を暫定方式とせよとの意見、また方式を決めても実施を遅らせよとの意見もあったが、『方式決定即実施』にするかどうかの問題は『関連』して考えている。
 NHKも、この方式が決まり、公共放送として実施する場合には、普及を図るため三十五年度予算に実験放送を一日一時間に延長し、いつ本放送になっても支障のないような予算措置もある。また教育テレビ番組にもカラーは重要視されている。
 電電公社のマイクロ中継線に対する意見に対しては、もっともと思うが、当初はカラーを実施できる十分な態勢にあるところに限って認可して行く方針で、全国一斉許可というのではない。
 各種の国際会議において議論されたが、方式をお互いに変換する技術の研究は必要であるが、わが国でこれを実施しても大した支障はない。
 民放各社がカラーテレビが経営に及ぼす影響を心配しているが、白黒については大体安定したと思えるし、全局がどうしてもやらなければならぬということもないし、やるならばお互いが努力し協力すべきであろう。
将来UHF帯を使う場合 どうかとの質問があるが、今のところ全く考えていない。欧州ではカラーでいくようだが、日本の場合今のところそのような必要はない。
 暫定方式に、という意見がだいぶあったが、標準方式というものは一度決めたらそう簡単に変えられるものではない。他にもっと秀れた方式があるならともかく、かえって混乱を起こすことになるから、決める以上は暫定方式とはしない。
 もしアメリカがNTSC以外の方式に変えた場合 どうするかの質問だが、これは仮定の問題であり答えようがない。よしんば新しい方式が出てきても十分検討する必要があり、また国際的規格統一不調の問題など含めると、そう簡単に変えられるものではない」
 甘利局長は、このように基本方針を述べて答弁を締めくくった。
 これによって注目の聴聞は一つのヤマを越えたと思われたが、利害関係者はこれで収まったわけではなかった。甘利電監局長の説明と答弁に対し、多数の質問が出るなか、中西、公平両審理官は、あえて利害関係者に重ねて発言を許した。
 そこで再度質問に立ったのは、ラジオ東京の遠藤幸吉氏、CBCの小島源作常務らであった。まず遠藤氏は概ね次の五項目について質疑を展開した。「①受像機の安定度が非常によくなったというが、チャンネルを切り替えても安定するか②四、五年で十万台くらい普及するというが、その根拠は③早期実施のために各種の条件が解決されたというがどの点か④UHFは将来絶対使わないか⑤暫定としなくとも将来変えられるようにいったが、そのような要素があるか」
 これに対して、甘利局長は、「①については、RCAのものを年代順にみると最近は非常によい。また各方面の意見を聞いてみると完全ではないが十分進歩している。②五年後に十万台という証拠はないが、生産設備の拡充その他からの普及過程において考えられる線である。日本は業務用が多いし、少なくとも十万以上普及しなければカラーテレビの実施などとは言えないではないか。③充分に各種の条件が解決されたというのではないが、解決のメドをつけなければ発展しない。④UHFは、どうしても波がとれないときは当然使うが、今のところ考えていない。⑤暫定方式の問題だが、近い将来に変わり得るような要素はない」
 甘利電波監理局長は、このように質問に答えた。(第163回に続く)

阿川 秀雄

阿川 秀雄

1917年(大正6年)~2005年(平成17年)

昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。

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