実録・戦後放送史 第163回
「カラーテレビの登場⑱」
第4部 テレビ普及に向けた動き
聴聞における甘利電監局長の説明と答弁に対し、再度質間に立ったラジオ東京の遠藤幸吉氏に続いて、CBCの小島源作氏は、「①いま直ちに実施しようとする理由②方式について、カラーテレビ調査会の中間報告では「現状から直ちに決めるとしたらNTSC方式しか考えられない」と、いわば条件付きであるのに何故急ぐのか③また同調査会のアンケートの方法にも問題がある④さらに電子工業会の主張にも「エレクトロニクスの発展には、カラーテレビの本放送を行わなくても進歩はある」といっているがどう思うか⑤カラーテレビについて多くの需要(開局希望)がないのに、供給(免許)が先走るのは不可解である」、の5点をあげて質問した。
そして、さらに小島氏は言葉を継いで「今回の聴聞は、すでに(役所側で)基本方針が決められていて、これを事務的に聴聞にかけているような気がする。午前中の関係者の意見、また電電公社でさえ『暫定方式』にすべきと主張しているのに、なぜ実施を急ぐのか」と喰い下がった。
このような小島氏の発言に対して公平審理官は色をなした。公平氏は聴聞そのものを批判されたと思ったようであった。
「皆さんに申し上げておきますが、聴聞制度というものをよく理解されたい。聴聞というのは、行政が重要な規則等を決めようとする場合、事前に国民や利害関係者の意見を十分に聞くために行うものであり、郵政大臣の諮問を受けた電波監理審議会がその「事案」について利害関係者の要望や意見を聞くものである。その聴聞の結果を審理官が判定意見を付し、審議会に提出する。しかして審議会は事案の適否を判断した上で「答申」を行うものである。もちろん最終判断は郵政大臣が決するが、その前提となるのが、この聴聞である。したがってあなたの言われるようなあらかじめ決まったものを「事務的」に処理しようというものではない。このため審理官としても審理には公正中立を厳守して臨んでおり、もし事案について不満なり疑義があれば遠慮なく意見を述べ、さらに事実を解明しようとされるなら、何十人でも参考人を申請されるのもよい。われわれも十二分時間をかけて審議する用意があるから、意見の食い違いなどあれば納得するまで論議されたい」
公平氏は、あらためて聴聞の性格についてこう説明した。
なお、小島氏の質問に対しては舘野放送業務課長が「さきの局長の答弁と重複する点は避けるが、今回のこの方針については、大臣が各方面の有識者の意見を聞いた上で態度を決め諮問したものと理解している」と答弁し、一応この場を締めくくった。
このあと中西審理官が石川参考人(公社技師長)に対して「電電公社はカラーテレビ中継について具体的な構想を持っているか」と質問。石川氏は「いずれカラーに移行すると思われるが、現在のところ考えていない。郵政省の方針もあると思うが、公社としては予算の国家承認という問題をかかえており、また今のところ早急に計画を立てる意志はない。むしろ公社としては一般の公衆通信の整備と普及を優先的に考えなければならない」とカラー回線の早急な全国的敷設について否定した。
以上、長文にしては、いささか断片的な紹介になったが、昭和35年4月13日から開催された、わが国カラーテレビジョンの「送信の標準方式」をめぐる省令案の聴聞は、既述のごとく4日間の審議を経てもなお終結をみるに至らなかった。
阿川 秀雄
阿川 秀雄
1917年(大正6年)~2005年(平成17年)
昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。
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