実録・戦後放送史- 電波取材に生涯を捧げた 記者・阿川秀雄の記録 -


実録・戦後放送史 第170回

「ハイビジョンを巡る国際動向③」

第5部 テレビの進化
 一九八三年五月三十一日、ITS(国際テレビシンポジウム)主催の第十三回コンベンション。アイルランド共和国のラジオ・テレビ局技師長G・T・ウォルター氏の「HDTVの課題と将来」と題した講演で始まった。
 ウォルター氏は、まず「先年アービン・トッフラーが〝第三の波〟なる学説を発表して話題を生んだが、われわれもテレビに関して新しく目を開くべきではなかろうか」と前置いて、「地球上に文字が発見され、印刷文明が完成されるまでに七千五百年もかかった。電波の実用もグーテンベルグからマルコニーに至るまでに少なくとも四百五十年、そしてラジオ時代からテレビに移るまでに二十五年を要している」と、過去におけるメディアの進歩の道程など興味深く語った。
 そのうえで、「今こそ我々は新しい高精細度テレビの開発と実施に向けて、手を携えて前進すべきである。衛星時代も目前にあり、たとえこれから十年かかったとしても、二十一世紀までにはこれを実現させるべきではなかろうか。したがって我々はこれが実施に備えて次の課題を解決しなければなるまい。ポイントは次の五点である」と力説した。
 ウォルター技師長は、高品位テレビ実施に必要な条件として、まず世界的に統一した標準規格を早急に決めるべきであると前置きし、それには、①トランスミッション(送信)の標準方式②スタジオの標準方式を決めること③周波数の選定及び使用バンド幅の帯域圧縮④早急に普及させるための家庭用受像機の開発を急ぐことを提案。 
 次いで「これらがもっとも重要な点であるが、そのためには、これにかける努力は、我々がこれまでテレビにかけた二十五年よりも、さらに多くの知能とマネー(資金)を必要とする」として、次のような六項目について具体的に主張した。
 一つ目に、規格の統一については、できるだけ簡単な方式が望ましいこと。二つ目に、ラインスタンダード(注・走査線の規格)を早く決めること。三つ目に、カラーの方式についても従来のものと調和がとれるようにしなければならないこと。四つ目に、画質だけでなく、もっと質のよいステレオ音楽を実現できる方途(たとえば多チャンネル化)を講ずるべきであること。五つ目に、HDTVは、フィルム(映画)以上の効果をあげるものでなければ視聴者を納得させることはできないこと。六つ目に、われわれは過去においてテレビの標準方式を決めるときに繰り返えした過ち(すなわちPALとかセカムとかNTSCという異なる方式での論争)、およびVTRにおいてVHSとかべータといった方式の不統一は、HDTVに限っては絶対に繰りかえしてはならないこと。このように話し、、「世界中の関係者が集まって、可及的速かに規格統一のための合意をしようではありませんか」と呼びかけた。
 そしてウォルター氏は最後に「これらの問題を解決するためには、多額の投資が必要であり、お互いに助け合い、過去の過ちをくり返えさぬよう、各国の政府機関がこれに協力すべきであって、たとえばCCIRで速かに標準方式を決め、これを各国に勧告して世界のスタンダードとして普及をはかることが望ましい」と結んだ。
理路整然としたウォルター氏のスピーチに万雷の拍手がしばし止まなかった。(第172回に続く)

阿川 秀雄

阿川 秀雄

1917年(大正6年)~2005年(平成17年)

昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。

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