実録・戦後放送史 第172回
「ハイビジョンを巡る国際動向④」
第5部 テレビの進化
1983年5月31日、ITS主催の第13回コンベンション。
アイルランド共和国のラジオ・テレビ局技師長G・T・ウォルター氏に、続いてスピーチに立ったのは、藤尾氏(NHK技術研究所次長)であった。
藤尾氏は、もの静かに、まず日本(NHK)が次世代のテレビとして考えた高品位テレビについて、十三年前からの研究開発の実状、その間における幾多の経緯と研究途上における問題点、そして今日すでにそれが完成の域に達した実情などを 順々と説き進めた。少なくとも五百人以上におよぶ来聴者は、正に固唾をのむ表情でメモをとり、熱心に耳を傾ける。その光景には、新しいテレビ時代への関心というか期待に満ちあふれるものを感じた。
やがて藤尾氏は、本論に入った。それはウォルター氏も説いたように「HDTVの研究上の考察と、これからの問題点」をテーマとしたものであった。
藤尾氏は、まず「世界が高品位テレビ(HDTV)に取り組み、かつ解決し、方式を統一するために考えなければならないことは次の三つである」と指摘。
一つは共通の標準方式を早急に決めることであるが、第一は「スタジオのスタンダード」、第二は「送信のスタンダード」であり、第三は「デジタルのスタンダード」だとし、これらの決定が先決であると強調し、詳細なデータと標準方式のパネルを用いて説明した。そのなかで特に強調したのは、NHKの開発したHDTVと、ヨーロッパ各国が研究している現状との比較、つまり欧州では電子ビームに頼っているのに対して、NHKはレーザービームによる録画、再生をしている点などをあげた。
これに対して多くの参加者から質間が続出した。藤尾氏は一つ一つそれに答え、「HDTVの世界統一ができれば、これは放送の分野だけでなく、この技術を導入することによって、映画もすべての印刷プリントも今日のものとは比較できない鮮明なものとなろう。もし世界の人びとがこの技術を必要とされるならば、私どもNHKは、いつでもその資料を提供しましょう。またディスプレイ(受像機)の問題にしても、NHKはすでに「壁掛けテレビ」を開発したが、これを利用すれば何ら心配することはない。さらに今後の放送は衛星利用が考えられるが、これについてもNHKは、すでにBS1(実験用放送衛星)によって実験ずみである」と自信のほどを表明した。
満堂を感動と興奮のるつぼと化したようなセッションは終わった。そして、その席上で「きょう午後二時から、市内アポロ劇場においてNHK制作のHDTVのテレビ映像公開があります」というアナウンスがあった。
阿川 秀雄
阿川 秀雄
1917年(大正6年)~2005年(平成17年)
昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。
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