実録・戦後放送史 第174回
「ハイビジョンを巡る国際動向⑥」
第5部 テレビの進化
かくしてハイビジョンの標準方式と、実施に関する論争は日、米、欧三カ国の間で、いつ果てるともなく続けられるのであった。
その中で特に欧米は「送信の標準方式」について日本と異なる線を出してきた。
これに対して日本側の主張は「われわれの現実的主張は、スタジオの標準であって、送信については各国の独自性を認めるにやぶさかでない」というものであった。すると、彼らは、「いずれにしても視聴者国民の立場を考慮しなければならない」と、対抗するための戦法を変え、かくしてNHK側とEC側とが口角泡をとばす論戦に突入し、遂に実施時期をめぐって火花を散らすような緊迫した場面を迎えることになった。
ITSの第14回、国際テレビシンポジウムは、前述したように、開会冒頭のオープニング・セレモニーにおいて「HDTV技術開発の功労者」として元NHK技師長の高橋良氏にゴールドメダルを贈呈したあと、技術セッションに入った。
しかし、華やいだオープニング・セレモニーが終わったあとのシンポジウム会場の空気は一変した。
それは、欧州各国(オランダ、フランス、イギリス、西独)は、彼らの共同開発したユーレカ方式(HD―MAC方式)の優位性を強調し、彼らとNHK側との間で火花を散らす舌戦が展開されていったからだ。
彼ら(欧州側)は言う「HDTVのような高値なテレビは、まず欧州各国で共通化したものにより、しかも現行テレビと互換性のあるものでなければならない。すなわち現行テレビの如き多方式による過ちを繰り返さないことだ。そのため我々は欧州一体によるユーレカ方式(DⅡマック方式)を考案し、これを世界のスタンダードとしたい。と同時にこれが普及について考えなければならないが、受像機の低廉化も含めて考慮するとき(放送の実施には)少なくとも10年20年先と考えざるを得ない」と主張した。
つまり、放送は一般家庭への普及が最終課題であり、そこへもってゆくためには国民の合意が不可欠だ。したがってHDTVの良さは認めるが「今すぐこれを実施するには機が熟していない」という主張であった。
こうしたEC側の発言に対してNHKの田所主幹は「すでに我が方は受像機についても“壁掛けテレビ”が実験の域を脱しており、政府の許可さえあれば、いつでも本放送に入れる段階にある。また放送衛星による実験も良好である。したがってCCIRで早く国際標準方式を決め、我々が開発したMUSE方式が“勧告”され、各国で採用されれば普及も速い。我々はあなた方から依頼があれば、どんなご相談にも応じたい」と現状を説明した。(第175回に続く)
阿川 秀雄
阿川 秀雄
1917年(大正6年)~2005年(平成17年)
昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。
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