実録・戦後放送史 第177回
「ハイビジョンを巡る国際動向⑨」
第5部 テレビの進化
1988年9月中旬、イギリス南部のブライトンにおけるIBC(放送コンベンション及び機器展)の現場を視察した。
会場は、いずれの場合も同じようにホテルとか特設会場をしつらえたものであって、特に目新しく感ずるものはなかった。
あらためて説明するまでもなく、IBCは、ITS(国際テレビシンポジウム)と同様に、放送関係の催事としては、ヨーロッパでは二大イベントの一つであって、両者は隔年交互に行っている。この会場では世界の新しい放送技術などの研究発表や討論が行われるほか、アメリカのNABショーにならった放送機器展も同時に開催され人気をよんでいる。もちろん日本もこれに招かれ、専門家の出席や機器展へのデモンストレーションが盛んである。
IBCコンベンションの開かれた英国ブライトンは、商船交易時代、華やかなりし頃の英国の表玄関であった。在りし日を忍ばせる大桟橋が二本、南大西洋に向けて延びてはいるものの、今日では一隻の大型船の繋留もなく、全く無用の長物と化している。鉄道駅が山の手にあるため海岸通りは人通りもまばらで、往時をしのばせる大ホテルも閑散とし、メインの商店街も人通りはまばらであった。
これまで、このようなイベントの行われた欧米の街の風景とは打って変わった物寂しさを感じながら会場に向かう。しかし会場に近づくと道の両側には大小の衛星放送中継用パラボラアンテナやテレビ中継車などがズラリと並び、はじめて放送機器展に来たな、という感じが強くなる。
会場に入るとボッシュ(西独)や欧米メーカーに交って、なつかしいPANASONICやソニーなどの展示場が人目を引いた。なかでもボッシュは大がかりの出品で「これが次代のカメラだ」とうたってHDTV用カメラの実演などもしている。
その奥にお目当ての「ユーレカDⅡ—MAC=HDTV実演会場」の看板を目にしたので、入ろうとすると、「招待券のない人は入場お断りします」と言われた。「日本から来たジャーナリストだ」といい「BBCのレガット氏の紹介でもある」と交渉して、ようやく狭いテント張りの会場に通された。しかし係員というか会場内の人達の態度は、なぜか冷ややかそのもので、これといった説明もしてくれなかった。
「これがユーレカか」、同行した友人もそうであったが、展示公開された二台の受像機の画像を見て、我々はむしろ優越感にひたったのである。日本で美しい画像をみてきているからだ。しかし、会場のどこを見ても、それを比較できる日本からのハイビジョン機器の出展は見当たらなかった。
それもそのはず、IBC関係主催者は、HDTVに関する限り、日本との同居を拒んだのであった。ユーレカ方式は当時開発が緒についたばかりであって、技術的には日本より数等遅れていると想像はしていたものの、実際にこの目でみて、その差を実感したかったのに、その目的は達成されなかった。それにしても彼らの排他的態度はどうかと思った。
(第178回に続く)
阿川 秀雄
阿川 秀雄
1917年(大正6年)~2005年(平成17年)
昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。
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