実録・戦後放送史- 電波取材に生涯を捧げた 記者・阿川秀雄の記録 -


実録・戦後放送史 第180回

「ハイビジョンを巡る国際動向⑫」

 最後にもう一度、ハイビジョンを巡る世界の動向、方式決定までの経緯などについて、以下に取り纏め参考に供したい。

 方式決定までの経緯
 1,NHKがハイビジョン(高精細度テレビ=HDTV)を、今世紀最後のというか新世紀における最終的テレビジョンとして基礎研究に着手したのは一九六四年(昭和三十九年)のことである。
 2,その後NHKは独自に研究を進め、一九七二年(昭和四十七年)に、初期のハイビジョン用実験カメラやモニターなどの開発に成功したのを機に、一九七八年、国際電気通信連合(ITU)で技術、規格などを審議するCCIR(国際無線通信諮問委員会)に対し、高品位テレビの研究を世界的に行うよう提案した。これがハイビジョン技術を世に問うことになる最初である。
 3,一九七九年には、国内的実験として、実験用放送衛星による伝送実験に成功するほか、70ミリフィルム用レーザーフィルム伝送装置の開発と、1インチサチコン高品位テレビカメラの開発に成功。
 4,一九八〇年(昭和五十五年)、技術研究所と東京・代々木のNHK放送センター間で無線による伝送実験を行い、これによりNHKは、翌八一年にアメリカ映画テレビ技術者協会(SMPTE)及びFCC(米連邦通信委員会)で、はじめてハイビジョンを公開して注目を浴びた。なお、この年にはハイビジョンVTRの開発にも成功し各界の注目を集める。
 5,ハイビジョンが、日本国内はもちろん、世界各国で大きな話題となったのは一九八二年(昭和五十七年)以降である。
すなわちこの年NHKは夏の甲子園高校野球大会の模様をハイビジョンによる撮影に成功するとともに、アメリカにおいてテレビ三大ネットの一つCBSと共催で、アメリカ国内で高品位テレビシステムのデモンストレーションを行う一方、同年秋アイルランドで開かれたEBU(ヨーロッパ放送連合)総会の場でも、これを公開展示して好評を博した。
 6,このようなことがあって 一九八三年五月スイスのモントルーで開かれたITS(テレビ国際シンポジウム)では、欧米の放送関係者によるディスカッションが行われ、国際的に大きく取り上げられることになった。 
 なお、この年NHKは、帯域圧縮技術によるMUSE方式を開発し名称も「ハイビジョン」という一般に親しまれる愛称とし、一九八五年開かれた“つくば万博”で一般に公開している。
 7,その翌々年(八七年)には、日本の放送技術開発協議会(BTA)とアメリカSMPTEがMUSEをスタジオ規格として制定した。
 国際的には前述したとおり欧州(EC)が一九八六年「HD―MAC方式」一二五〇/五〇方式をユーレカ,95として決定したこと、アメリカは世論等を勘案して、NTSC方式と(一時併行する)ATV(アドバンステレビ)方式とし、二〇〇八年を期し全面的に地上波によるデジタルHDTVの実施をほぼ決定している。
 このようにみてくると、ハイビジョンについては、日本が、独り歩きの状況で、すでに日本が開発したMUSE放送システムは、CCIRはもちろん、その上部機関であるITUからも国際標準規格として承認され、全世界に大手を振って歩ける独立性を持つことができた。
 しかも、この事業を商業ベースで考えると、今後十年間に十兆円とも二十兆円ともいわれる一大市場である。加えてハイビジョン技術の応用は、ひとりテレビジョンのみならず、映画や印刷、医学等の上に果てしない世界を開拓するはもちろん、教育文化の向上にも計り知れない効果が約束されている。だが問題は、このハイビジョンをどう家庭における最後の情報文化導入の必需品とするかにかかっているといえよう。
 エレクトロニクスの粋をきわめた受信機器であり、急速な低廉化は無理かもしれない。また番組ソフトの上においても課題は多い。しかし、それらの難関を乗り越えてはじめてハイビジョンは真に国民のものとなる。
 かつて電機業界では需要予測として九三年には20万台、九四年には50万台、九五年には100万台、二〇〇〇年には160万台といっていたが、現実にはその半分以下というのが実情である。その理由は価格問題に加えソフトの量と質ではないかと思う。現行テレビと同様かそれ以上に「生活に必要な情報」を日夜伝達するハイビジョンでなければ普及は困難ではなかろうか。(終)

阿川 秀雄

阿川 秀雄

1917年(大正6年)~2005年(平成17年)

昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。

是非、感想をお寄せください

本企画をご覧いただいた皆様からの
感想をお待ちしております!
下記メールアドレスまでお送りください。