放送100年 特別企画「放送ルネサンス」第41回

宮崎慶太

TBSテレビ メディアテクノロジー局 イノベーション推進部 部長

宮崎慶太 さん

宮崎 慶太(みやざき・けいた)氏。2007 年 TBSテレビ入社。配属はスポーツ中継技術のビデオエンジニア。2010 年にカメラマンに転向し、スポーツ、バラエティ、歌、ドラマ、情報、報道等、あらゆるジャンルのカメラを担当。2017 年ロンドン支局カメラマンとしてイギリス赴任、2020 年に帰国後はテクニカル マネージャーとして主に報道番組の技術責任者を担当した。2023 年 7 月に新設された DX推進を担う「イノベーション推進部」部長に就任。

宮崎慶太さん インタビュー

「放送」は従来のあり方を大きく変えるべき

2025年8月4日

 

―放送の出会いは

 大学の音響設計学科で音の勉強をしていたころ、その学科が伝統的に引き継いできたアルバイトとして、福岡ドームの前にある結構大きなライブハウス「ZeppFukuoka」でカメラの仕事をしていた。リモートカメラがセンターと斜に置いてあり、その2台のカメラをスイッチングして、ロビーに出す映像やアーティストに渡す記録用の画像を制作する仕事だった。その際に、TBSの系列のRKB毎日放送が、映像を撮るのが上手いアルバイトがいると評判になって、RKBの音楽番組のADとして雇われることになった。そして、もっと多くのカメラで操作したい、特に歌番組をやりたいと思うようになり、やはり東京だろう思い、東京に来た。
 だからテレビ局には、カメラマンをやりたくて入ったという感じだ。音の勉強をしていたため、会社からは音声関係を担当するよう話があったが、音だけは嫌だと言って叱られたこともあった。結局、同期入社に3人のカメラ志望がいたが、私以外の2人がカメラになり、私はVE(ビデオエンジニア)になった。VEは3年間しっかりやって、晴れてスポーツのカメラから始め最終的に歌番組も手掛けることができた。私にとっては、テレビ局に入りたいというより、カメラをやりたいということが大きかった。

 

―現在はTBSのDXの責任者を務めている

 カメラマンになってオリンピックやワールドカップ、世界陸上などに行った。報道でも、カルロスゴーンがレバノンに逃げたときにずっと追いかけていた。ロンドン支局に3年、2017から2020年にいたが、コロナでロックダウンされて、誰も乗ってない飛行機で帰国した。色々と大きな仕事もさせてもらった。
 日本に帰ってから、テクニカルマネージャーという番組技術の責任者となり、2年前からデジタルトランスフォーメーション(DX)部署の部長になった。この部署は技術の人だけでなく、プロデューサーとかディレクターとか様々な職種がいる。
 私はDXのことを「泥臭トランスフォーメーション」と呼んでいる。放送の仕事や番組制作の仕事は、非常に面倒な問題が残っていて、私達がやることは、その面倒くさい問題を泥臭く逃げずにやること。その手段としてデジタルを活用するということだ。
 部長になってみると、番組を作っていたときの手法がそのまま使えることが分かった。テクニカルマネージャーの時に、チームを作って、人の配置をして、面倒くさい制作と調整する作業をしてきたが、その分野が変わっただけのような感じがした。テレビ作りは色々なチームマネジメントが詰まっていることが部長になって分かった。
 今の若い人には、テレビを作る、コンテンツを作る、そのスキルはその後にも必ず生かすことができ無駄にならないと話している。

 

―放送の現状の問題点や課題は

 我々の仕事は良いコンテンツ作りが目的だ。
 良いコンテンツとは基本的には物事をわかりやすく伝え、その伝えた人に何か良い影響を与えることであり、それが役割だと思っている。人が物事を考えるための質の良い材料を提供することだと思う。
 テレビが、だいぶ前からオールドメディアと揶揄され、業界自体がシュリンクしていくことが確定的になる中で、放送は絶対変わらなくはならないと思っている。我々TBSとしても、今まで通りやっていたら駄目だという危機感はある。ただ、これまで絶対さぼらずに質の良いものを作ってきた自負はあるし、実際に世の中で見てもらい喜んでもらったこともあることも間違いない。
 しかし、自分のことを考えても、家に帰ってテレビよりもYouTubeを見てしまう。やはり自分が見たいときに見たいものを見られないとフラストレーションを感じる時代だ。みんな忙しくなり時間がない時に、テレビでは見たいものになかなかたどり着けない。一方で、TVerがありU―NEXTがあり、NetflixやAmazonプライムがある。私もスポーツはDAZNで見ている。
 そう考えると、「電波を使ってスカイツリーから送る」という世界は変わらなければならない。ブロードバンド代替の話もあるが、伝えるための手段は明らかに変化している。コンテンツを見るための方法は急激に増えている。コンテンツを作る側は、色々なところに向けて使う、色々ところで流れるという前提でやらなくてはならない。

 

―放送はどう変わる必要があると考えるか

 放送には「あまねく伝える」という言葉があるが、これはNHKの役割を示すもので、民放も同じように全部やる必要あるのかと考えている。最低限のインフラとしてテレビが見られるようにすることは、NHKのミッションでいい気がする。もはや民放の役割を明確に変えてもいいのかなと思う。
 民放もNHKも、インターネット経由で見られるようにすることは当たり前であり、TVerで番組を見るのも当然になっている。電波は食いぶちであり何が何でも守ると言ってきたが、もはや、本当の意味で食いぶちは、そこではない。電波を持つことではなく、電波以外のもっと色々なところで稼ぐこと、Netflixに我々の番組が流れることもあっていいと思う。本当の意味で食いぶちが何か考えないといけない。



 

―従来型のテレビはなくなると思うか

 個人的な意見ではあるが、私以下の世代は完全にその世界になると思う。なぜならば、自分の妻も子供ももうテレビを見ない。私はテレビで育ってきた世代で、テレビしかなかったからテレビを見てきた。しかし、今は、あまりにも選択肢が増えすぎている。その中でテレビの優先度は、かなり低い。その現実は認識してテレビ局で仕事しなければならないと思っている。
 一方で、従来型のテレビの見方を完全に排除するのかと言えばそうは思わない。リニアな見方が好きな人がいるのは間違いないし、私達がマスに向けてやっている以上、そこの選択肢は残すべきだと思う。その意味で地上波は続けるべきだと思うが、今まで私達は、あまりにも地上波に集中しすぎて来た。これからは、資源をいろいろに振り分けなければならない。
 今やっているDXとも関わるが、今まで全てを集中してテレビのコンテンツを作ってきたが、これからは、無駄を徹底的に排除し、質を高めることにリソースを集中させることが必要だ。質を落とすことは我々の存在意義を失うことになるので、そこは変わらずやり続ける。ただしベースの意識を変化させていかないといけない。例えばこの世代からこの世代は地上波で見るのに対し、この世代はインターネットで見るというように、それぞれ対策を講じる必要がある。

 

―「無駄を排除する」というが視聴率が低い番組や、ネットで受けない番組は無駄ということか

 視聴率が低い番組が無駄だと思わない。放送すべき番組は矜持を持って流すべきだと思う。私が言っている無駄は、番組を作るときのプロセスの話だ。今まで地上波至上主義で何十年もこのやり方が正しいとされてきた番組制作。「それで、これまで回ってきたから、いいでしょ」みたいな処にメスを入れること。ゴールは良い番組を作ることであり、それをちゃんと届けることだ。
 今は働き方改革でドラマのADが以前は1人で担当していたところを3交代でやるが、引き継ぎが上手くいかず、現場が余計に混乱してしまうなどといった状況もある。そうしたなかで、その作業がドラマ制作に本当に必要なのか、AIを使えば、リサーチ作業がもっと楽にならないか、それによって余裕が生まれ、コンテンツに向かう時間が増えるのではないか。無駄の排除とは、そういうことを狙いとしている。

 

―放送がネットなどの登場で相対化されるなかで、放送設備、特に送受信設備なども無駄だと考えるか

 これまでは、災害報道のために電波は重要だった。その意味で放送は今もメインの存在ではあるが、それで全てをカバーすると考えるのは違うと思う。放送が届かない地域をカバーするためには送信所を増強するのではなく、Starlinkでカバーすることもあっていいのではないかと思う。
 これは、地上波はダメだと言っているのではなく、勿論、地上波の強さはもう本当に実感していて、地上波にCMを出してくれる人がいるのは、それが多くの人に届いているからであり、実際にその効果があるからだ。そうした今ある地上波の強みはフル活用して当然使っていった方がいい。電波とネットは適切な塩梅を見極めることが重要であり、それを考え決めるためには、NHKと民放が一緒に考えていくべきものだと思っている。

 
 

―今後の放送の在るべき姿は

 まず、民放とNHKは敵ではない。私がイギリスにいたときに、公共放送のBBCと民放ITVがあったが、アメリカでイギリスのコンテンツを配信するときは、BBCとITVが組んで一つのアプリでやっていた。ライバルが、ネットフリックスやAmazonプライムなどになっている中では、公共放送も民放も同じアプリで一緒に海外で攻めて行こうという考え方だ。日本でもそうあるべきで、身内で争っていてもしょうがいない。放送の世界は、この先、不確定な要素が多く見通すのは難しい。とにかく業界が協力し、キャッチアップとアップデートをしっかりやるしかない。ネット配信などで一緒にやれることからやっていくしかない。放送は守られているからといって放置せず、先回りで手を打つことが求められていると思う。

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(敬称略:あいうえお順)