量子コンの蒸留限界を突破
大阪大学大学院基礎工学研究科/量子情報・量子生命研究センターの箱嶋秀昭助教、NTTコンピュータ&データサイエンス研究所の遠藤傑准特別研究員、山本薫研究員、中央大学の松崎雄一郎准教授、東京大学大学院工学系研究科の吉岡信行助教は、量子コンピュータにおけるシミュレーション性能を劇的に向上させる新しいアプローチを発表した。この方法は、局所性と呼ばれる物理学の基本的な概念を量子シミュレーションの実用化に応用したものであり、未来の量子技術の実現を大きく前進させるものと期待されるとしている。
の限界や環境からのノイズといった多くの実験的制約に直面している。先行研究においては、量子状態間にもつれ測定を実行し、実験的な限界を超える結果が得られる、蒸留と呼ばれる手法が提案されているが、系のサイズが大きくなるにつれて測定回数が指数関数的に増大してしまう問題を抱えていた。
今回、研究グループは、着目する局所領域にのみ蒸留する「局所仮想純化法」という手法を提案し、クラスター性と呼ばれる、物理学における基本的な性質が成立するという条件のもとで、測定回数の問題が解決することを理論的に証明した。本提案手法は、量子シミュレーション性能を劇的に向上させるとともに、量子シミュレーションの実用化への重要な一歩となるものと期待されている。
量子力学は自然現象を記述する最も基本的な理論であり、現代物理学の基盤としての役割だけでなく、半導体デバイス設計のような現代エレクトロニクスの基礎としても重要な役割を担っている。量子力学に従う複雑な現象は、従来のコンピュータではシミュレーションが困難であると知られており、複雑な現象を理解し制御することのボトルネックになっている。
そのような自然現象を効率的に調べるために有効な手段と考えられているのが、量子力学に従って動作するデバイスの活用、すなわち量子シミュレーションとなっている。量子シミュレーションは、リチャード・P・ファインマンによる量子コンピュータの提案の起源であるだけでなく、現在の量子情報科学において中心的なトピックであり、物性物理学、統計物理学、量子化学、高エネルギー物理学など、複雑な量子力学的現象が現れる多くの分野への応用が期待されている。
例えば、熱平衡状態・非平衡ダイナミクスのシミュレーションにおいては、量子力学的な効果が大きく現れる場合、従来のコンピュータでは非常に困難と考えられており、量子シミュレーションの応用が威力を発揮すると注目されている。しかし、これまでの量子デバイスには、実験的な制約があるためすべてのタスクを量子デバイス上で行うことが難しいという問題があった。実験的な制約とは、例えば冷却温度の限界や環境からのノイズの影響のことを指す。この問題に対処するために、もつれ測定を利用した、量子状態の純度を仮想的に高める方法である仮想冷却法・仮想蒸留法が先行研究で提案された。しかし、扱う問題のサイズが大きくなるにつれて測定回数が指数関数的に増大し、量子シミュレーションが威力を発揮するはずの大規模なサイズの問題に対処できなくなってしまうという困難を抱えていた。
(全文は9月4日付紙面に掲載)
この記事を書いた記者
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