
「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」 YRPオープンイノベーションデー、元デジタル大臣の牧島氏ら講演
神奈川県横須賀市光の丘の横須賀リサーチパーク(YRP)で2025年10月3日(金)、4日(土)の2日間にわたり、YRPオープンイノベーションデー2025(同実行委員会主催)が開催された。企業や大学、研究機関が研究成果等を発表するブース出展のほか、有識者による講演会も催され、2日間で約1700人(主催者発表)が来場した。
情報通信技術(ICT)を中心とした研究開発拠点として、3年前から進出企業や研究機関、大学研究室等の事業活動・研究成果等を一般公開している。
3日は元デジタル大臣で衆院議員の牧島かれん氏による基調講演と、東京大学大学院情報学環教授の越塚登氏、内閣官房国家サイバー統括室統括官の木村公彦氏による講演があった。
牧島氏はYRPのある横須賀市出身で、自民党IT戦略特別委員会 事務局長やデジタル社会推進特別委員会事務局長、デジタル社会推進本部事務局長等を務めた経緯から令和3年10月から4年8月まで、約10か月間にわたって二代目のデジタル大臣を務めた。基調講演では、在任中の経験を振り返りながら、「政治の現場からひも解くデジタル政策」と題して講演した。
牧島氏は、横須賀市について、「米軍基地がある街として日本の安全保障の要を担う地であることは間違いない。今守らなければならない領域がサイバー空間にまで広がっている中、安全保障を考える場所として横須賀が果たす役割は大変大きい。サイバーという空間は国境が目に見えて存在しているわけではなく、日本と同盟国のアメリカとの連携は重要。YRPという場所が持つ意味を共有したい」と述べた。
デジタル庁については、「あらゆるバックグラウンドの人が集まる場所、ほかに真似のできない新たな霞が関のショーケースとして、これからの行政のモデルケースとなる『霞が関のイスタンブール』を目指して努力してきた」と話した。
また、「『誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。』のミッションは当初『誰一人取り残さない』となっていた。私たち一人ひとりが取り残されていないと感じることができるよう、たった一文字の『れ』に思いを込めた」と振り返り、「デジタル庁には柔軟性を持って開発を進めていくアジャイルの精神がインストールされている。みなさんがユーザとして気付いた部分があればフィードバックをもらいたい。それによってサービスの質は常に向上され、国民にとってより良いデジタルの基盤が作られる」と呼び掛けた。
デジタル関連の具体的な政策として、デジタル原則に沿ったデジタル化に向けて、目視規制や対面講習規制、書面提示規制等の「代表的なアナログ規制である7項目」への整理と、その見直しに向けた適合性の点検・見直し作業の実施により、9669項目のアナログ規制項目の調査を実施。見直し対象外を除く6404項目のうち、6257項目について見直しが完了した(2025年8月現在)と報告。「国の法律上ほぼ100%近くテクノロジーへの置き換え終了が見えている。他の地方自治体にも動きを呼び掛けている」と述べた。
このほか、ガバメントクラウド移行による構造改革やマイナンバーカード、マイナ救急に向けた取り組みを紹介。またデジタル推進委員アンバサダーで、視覚障害者の浅川智恵子さんによる視覚障害者の移動支援のための「AIスーツケース」を紹介し、「これこそ『誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。』を体現した取り組み。研究開発に取り組む皆さんには、テクノロジーが誰かのチャレンジを乗り越えるために使われるとき温かい社会が実現されること、日本ならではのデジタルの温かさが世界に伝わるきっかけとなることを進めて欲しい。本当のデジタルは温かいものであると確信している」と呼び掛けていた。
続いて越塚氏は、「私たちの生活と仕事を変える生成 AI―怖がらずに、使いこなそう」と題して講演。生成AIの活用事例や現状について解説したほか、現在ある生成AIのツールを活用して、実際にYRPオープンイノベーションデイ2025のイラストや歌を作成した取り組みを紹介。元となる案内の資料データを読み込ませて作成した、挨拶の原稿、歌の歌詞やメロディ、案内ポスター風イラストを紹介し、「金や人出、時間も足りなくて困っている方からすれば、頼れるのはAIだけ。怖いことはないので恐れることなく楽しく使ってみて欲しい」と話した。
最後に木村氏は、「我が国におけるサイバーセキュリティ政策の動向について」と題して講演。サイバー事案の近況やサイバー対処能力強化法等の概要についてオンラインで説明した。
サイバー攻撃関連の通信数や被害状況は質・量ともに年々増加傾向にあり、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が観測したサイバー攻撃関連通信や被害調査結果によると、各IPアドレスに約13秒に一回の割合で何らかの攻撃が仕掛けられている状況にあるという。令和6年中に観測されたサイバー攻撃関連の通信の99%以上が海外から発信されたもので、手口もIT系システムの侵害や重要インフラ等への侵入など巧妙化・深刻化しているとした。
こうした状況を背景に令和7年2月に閣議決定され、5月に公布されたサイバー対処能力強化法及び同整備法は、サイバーセキュリティが害された場合に国家及び国民の安全を害し、国民生活や経済活動に多大な影響を及ぼすおそれのある国等の重要な電子計算機に対する不正な行為による被害防止を図ることを目的に規定。主な柱として、「官民連携の強化」と「通信情報の利用」、「分析情報・脆弱性情報の提供等」の三つを例示。「基幹インフラ事業者がサイバー攻撃を受けた場合等の政府への情報共有や政府から民間事業者等への情報共有、対処支援等の取組強化」や「我が国に対するサイバー攻撃の実態を把握するため、通信情報を利用、分析し、独立機関がチェック。制度設計に当たっては『通信の秘密』に配慮する」といったそれぞれの概要を説明した。
また新たなサイバーセキュリティ戦略の方向性として、新たな司令塔組織(国家サイバー統括室)を中心とした総合的な対応方針の確立・実行やセキュリティ人材の確保、育成等を推進して広く国民・関係者の理解と協力の下、国がサイバー防御の要となり、官民一体でサイバーセキュリティ対策を推進する必要があるとして、「難しい話という認識を持つ人もいるかもしれないが、基本的な対策を徹底するだけで防げる場合も多い。身近なものとしてサイバー空間の安全を守っていけたら」と話していた。
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- 主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。
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