東芝、インフラ内部損傷を非破壊で可視化
東芝は、2月5日に研究開発新棟「イノベーション・パレット」(川崎市幸区)で、グループの研究開発の最前線を紹介する「総合研究所 Media Day 2026」を開催した。
同社は、2025年4月1日付けで、新たに「総合研究所」を設立した。これまで、グループ全体の視点で長期的な技術戦略を策定し、先端・基盤技術の研究開発を担ってきたコーポレートラボと、各事業会社で事業に直結した応用・商品技術開発の中核を担ってきたワークスラボを統合し、「総合研究所」として集約した。この新体制の下、中期経営計画「東芝再興計画」に基づき、革新的な技術の創出と、その早期事業化を加速している。
今回は、総合研究所が統括する多様な研究領域を、研究開発新棟にて紹介した。キャッチフレーズ「技術への挑戦。ともに描き、ともに創る未来。」のもと、経営理念「人と、地球の、明日のために。」の実現に資するナンバーワン/オンリーワンを目指した技術への取り組みを紹介した。
「総合研究所」の紹介で上席常務執行役員CTOの佐田豊氏が次のように説明した。
グループの経営理念「人と、地球の、明日のために。」は、東芝という会社の社会における存在価値を的確にシンプルに表している言葉である。人と自然が共生する社会、安全・安心な社会の実現に向かって努力を続けている。こういった我々の思いは、150年前の東芝の田中久重、藤岡市助の2人の創業者から受け継がれている。東芝は2人の創業者のベンチャースピリットを受け継ぎ、世界初・日本初の技術を生み出してきた。東芝の経営戦略の全体像をみると、全社ROS(売上高経常利益率)10%を達成するために経営管理の高度化を進めているが、その中のひとつに「革新的技術の創出と早期事業化」とある。東芝の中長期的な成長には、常にこの『技術のドライバー』が大事であることは変わりがない。研究開発に関わる課題認識は「社会創造力の強化」である。これは、研究開発の成果を早く事業化、社会に持っていくこと、社会に価値を生むソリューションを設計して実証する力を伸ばしていくことで、現在の研究所の形を作り上げている。
そして昨年の4月に研究開発体制を再編して総合研究所を設立した。それまでコーポレートレベルにあった研究開発センターを含めて、3つの技術センター、研究開発センターと事業会社に所属していたエネルギーやインフラなどの事業に特化した開発グループ、ラボラトリーを統合して総合研究所を作った。総合研究所のオープンイノベーションを推進するのが、研究開発新棟、この「イノベーション・パレット」である。目指す姿は、多様な人材と技術が集い、刺激し合い成長していく場の醸成及び社会・パートナーとの共創による新たな価値の創出である。
そして、未来創造価値創造活動「技術長計」を謳って「皆様と未来を会話し、ともに社会課題を抽出・解決」する。
我々は多様な技術を持っており、その技術が突合することで新たなイノベーションを起こすことが、東芝のユニークな競争力であると認識している。総合研究所の中でも複数の研究者同士が、あるいは複数の技術領域同士が接点を持つような様々な工夫をしている。
総合研究所所長の落合誠氏は「今の社会環境は、エネルギー転換あるいはデジタルトランスフォーメーション、一層の安心・安全の確保といった社会的な課題がたくさんあると認識している。その中で、テクノロジーに対する大きな期待といったものを私どもも感じながら、日々研究開発のスピード、質を高めていくことに取り組んでいる」と述べた。
技術展示はエネルギー、デジタルインフラ、デバイス、AI・データ・セキュリティ、量子・革新に関する技術テーマを紹介した。
主な展示アイテムは次の通り。
▽世界初の自然由来ガス送変電機器を実現する高電圧絶縁技術▽知能化ロボットの制御・AI技術▽小型高精度MEMS慣性センサ技術▽アコースティック・エミッション(AE)インフラ予防保全技術▽GaN搭載 超小型モジュールを用いたビルディングブロック電力変換技術▽データセンター向けニアラインHDDの大容量化技術▽東芝独自の知識表現手法「知識ばらし」を活用した暗黙知抽出AIエージェント技術▽型・高速の送受信モジュールを用いた衛星QKD(量子鍵配送)技術―など。
『小型高精度MEMS慣性センサ技術』では〝GPS無しでも高精度に自分の位置がわかる〟を提案した。NEMSとは、半導体技術で加工した微小電気機械システムのこと。ここでの背景は社会基盤運営の省人化/無人化の要求が加速と、自律モビリティの高精度かつロバストな測位技術が重要―である。『高精度かつロバストな測位技術を提供』するとし、技術の強みとして2点挙げた。
ひとつは「太平洋航路をGPSなしで飛行できる高精度化」。航法精度1NM/h相当で、MEMSでは世界最高レベルとなっている。従来手法(変位検出)と異なる検出技術で、計測レンジ(応答性)を維持したまま高精度化を実現する。
二つ目は「MEMS技術を用いた小型化」。ジャイロと加速度センサをワンチップ化した。手のひらサイズの小型モジュールで、スマホ向けMEMS慣性センサの100倍程度の高精度となっている。
「GPSが無くても、オブジェクトを正確に測位できる技術を開発した。一般的に測位を行う場合はGPSを使ったり、あるいはその周囲の画像を撮影して、それで位置を求めるSLAM技術を使うすが、イレギュラーが起きた時に測位が途絶えてしまう課題があった。我々は物体の動きを計測する慣性センサとジャイロで動きの情報を正確に計測できる。高精度が実現したのは、MEMS技術でジャイロと加速度センサをひとつのチップ上に搭載した」(説明員)。
『アコースティック・エミッション(AE)インフラ予防保全技術』は、目視で分からない社会インフラの内部損傷を非破壊で可視化する。現在、老朽化、熟練者減少で橋梁等のインフラ維持管理の課題が顕在化している。また、既存の点検では内部の劣化の見逃しにより事故の頻発が懸念されている。この技術は『見えない劣化の兆候をいち早く検知する」。
技術の強みのひとつ目が『目視で分からない橋梁内部損傷のマッピング技術。微弱な弾性波(アコースティック・エミッション)を利用して床版内部損傷を可視化する。すでに実用化済みで様々なインフラ設備、産業機器などの予防保全に展開されている。国交省標準試験にて的中率ナンバーワンという。
2つ目が『計測コストを低減する独自のセンサーシステム』。乾電池で動作する無線センサーシステムで、独自の高精度時刻同期間アルゴリズムを搭載した。すでに現場業務に適用されている。
「目視などではわからない内部の損傷を微弱な弾性で捉えて、内部の損傷を可視化してマッピングする技術。簡単にいうと、内部にひび割れがあると、弾性波がうまく伝わらないので、そのひび割れの部分だけ赤く光って、どこがひび割れかわかる。これによってインフラの保全計画を効率化したり、あるいはライフサイクルコストを低減したりする。この技術は東芝が主導で標準規格も策定している。ポイントは複数の端末の時刻精度同期が非常に高精度であること。今まで有線でしかできなかったものを無線化して現地の作業コストを半減している」(説明員)。
『東芝独自の知識表現手法「知識ばらし」を活用した暗黙知抽出AIエージェント技術』は、生成AIを活用して製造・社会インフラ業務の熟練者知識継承を実現する。背景は、製造・インフラ事業の維持のため生成AIによる知識継承のニーズが高まっていること、現場の知識継承においては、生成AIモデルの現場向けの適応コストが課題だったことだ。
そこで『現場向けの高度な知識継承ソリューションをすばやく導入する』技術を提案。具体的には「知識ばらし」を活用した効率の良い暗黙知抽出AIエージェントがポイント。「知識ばらし」とは、業務プロセスや暗黙知を構造的に整理する東芝独自の知識表現手法。AIエージェントは知識表現構築のための〝インタビュー〟を実施する。1業務あたりの暗黙知抽出にかかる人的コストを4分の1に削減する。
また、生成AIモデルの低コスト現場適応で、知識忘却を要請可能なモデルの現場適応手法、少量データでの適応を可能とする図表解析データ生成手法を提供する。前者は、一部の重要なパラメータのみ更新することで知識忘却を抑制する。後者は、画像説明文へ変換する際、複数の画像を同じ表現へ変換できるため、学習データ数を削減できる。
「こちらは、対象業務を業務プロセスに展開して、作業内容に落として、そして暗黙知を紐付けるといった業務全体を俯瞰した形で暗黙知というのを保存するような表現形式になっている。AIエージェントが〝インタビュー〟を熟練者にしていく。デモでは「知識ばらし」の結果をだんだん育てていくような、そういった様子がわかる。知識を集めるときには、生成モデルを現場にフィッティングさせることが性能向上のために必要だが、その時のコストを下げる技術も同時に開発している」(説明員)。
写真=『AEインフラ予防保全技術』を展示紹介した
この記事を書いた記者
- 元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。
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