防災科研の火山噴出物分析とは
国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研、茨城県つくば市、寶馨理事長)は、令和7年度の成果発表会を2月25日に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催した。
今年度は「オールフェイズに対応した防災科学技術 ~人と社会の安全保障への貢献~」 をテーマに、同研究所の最新の研究成果や取り組みを紹介した。
冒頭、開会挨拶を寶理事長が行い次のように述べた。
最近の防災科研の動向を紹介する。防災科研は1963年に科学技術庁の下に発足した。昭和の時代には、地震を中心に観測、実験、予測、予防といった研究を行っていた。そして2000年くらいから、都道府県がインターネットで災害情報をホームページに載せたりして、情報伝達に関する研究もこの世紀に入ってから進めてきた。近年では、社会との共創ということで、様々な分野の知見を総じて活用し、防災科学技術の観点から本日の成果発表会のサブテーマである『人と社会の安全保障への貢献』を行っている。
そして、防災科研単独で災害防災にあたるということではなく、国の組織として他機関と力を合わせながら対処することが重要であり、そのような活動を展開している。
いくつかの事例を紹介する。昨年12月には海洋研究開発機構(JAMSTEC)と合同シンポジウムを行った。同団体とは、海底地震や海底火山、津波などの観測について協力しており、火山本部の運営についても共同事務局を担当している。
その火山本部の活動として「火山噴出物分析センター」を防災科研の敷地内に設置することが今年度決定した。様々な分析機器を取り揃え、平時、火山噴火災害の緊急時に噴出物の分析を行い、火山災害対策を効果的に実施する。全国の大学、産総研、JAMSTECなどと協力して進める。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)とも協力している。イベントで国際宇宙ステーション(ISS)に参加していた宇宙飛行士の油井亀美也さんとのコラボを行ったり、油井さんが宇宙から撮影した地球の様子を共有して発信した。
昨年11月にはインドネシア豪雨が発生し、JAXAとは国内だけでなく、こうした海外の災害についても観測分析を行って協力している。
今年度の防災科研のハイライトは、南海トラフ海底地震津波観測網(N―net)の完成である。N―netによって、南海トラフ地震が発生した時、地震動を以前より20秒早く検知し、津波の到達時間を最大20分早く知ることができる。この20秒、20分というリードタイムが人命救助、住民の対策や避難に重要な役割を果たすと思う。 N―netの構築にあたっては、高知県室戸市や宮崎県串間市、漁業協力関係者らの協力を得た。海底光ケーブル技術においては、NECおよび関連会社の協力を得た。昨年7月29日には完成記念シンポジウムも行った。
次に様々な国内組織との連携共創活動について。和歌山県白浜町とは、南海トラフ地震、津波、飛行機の活用という観点での協力した。12月には沖縄で全国初の総合検証訓練「SIP防災OKINAWA2025」を行った。災害時の情報伝達共有を円滑化するため、地元自治体、南城市、警察、消防、自治体、海上保安庁などとともに演習を行った。今年1月には札幌で札幌市、札幌市立大学と包括的連携協定でシンポジウムを行った。
それから防災科研では年3回、民間企業や自治体の皆さんとともに災害レジリエンス共創研究会を行っている。国立高等専門学校機構、国際科学技術振興財団とも協力して、高等専門学校の高専生を対象とした防災減災コンテストも行った。最優秀のアイデアには文部科学大臣賞も授与した。
海外の多数の研究機関との交流もある。覚書等を締結している。欧米、アジア、太平洋地域が中心となるが、海外との交流、交流を進めている。今年度はASEAN、韓国、台湾、スイス、イタリア、ニュージーランドなどと交流、共同研究などを進めた。昨年12月には日本学術会議において「世界の防災の未来」という国際学術フォーラムを行った。
続いて来賓挨拶を文部科学省文部科学審議官の柿田恭良氏が行い次のように述べた。
防災科研は『生きる、を支える科学技術』を基本理念に掲げ、防災減災分野の基盤的な研究開発を担う国立研究開発法人として予測、予防、応急対応、復旧、復興に至るまで、オールフェーズに対応する様々な活動を展開されている。実に幅広い活動を展開されており、寶理事長をはじめ、研究所の皆さんの日頃の尽力に心より敬意を表し、感謝を申し上げたいと思う。
令和6年4月、文部科学省に火山調査研究推進本部が設置された。これに伴い、防災科研の果たす役割はますます拡大している。この火山本部の方針を受けて、防災科研に新設されることが決まった「火山噴出物分析センター」は、火山活動の把握と予測、そして適切な避難につなげる極めて重要な取り組みを担うことになっている。
全国には111の活火山があり、そういった地元自治体からも大きな期待が寄せられており、今後の活動が注目される。このセンターがこれから始動することによって、火山の安全確保に大きな進展をなされることを心から期待している。
高市総理は『日本列島を強く豊かに』を掲げて、危機管理投資を大胆に進め、令和の国土強靭化を目指す方針を示されている。このような方針のもとで、防災科学技術の進化によって防災の未来を切り開き、私たちの国土や暮らしをより強くしなやかなものにしていかなければならない。
本日の成果発表会を通じて、防災科研と多くの関係機関、さらには社会とのつながりが一層広がることによって、新たな連携協力なども生み出しながら、わが国における防災科学技術が大いに発展することを祈念する。
基調講演1・2は「未来に向けての防災科学技術」をテーマに行った。基調講演1は「火山噴出物分析センター設立に向けて」と題して、藤田英輔巨大地変災害研究領域火山防災研究部門研究部門長が行った。
講演要旨は次の通り。
「火山噴出物分析センター」の設立に向けて、我々は現在準備段階にある。ここでは、その紹介をする。日本には111の活火山がある。世界には約1500あって、日本に活火山の約1割が集中している。世界有数の火山国になっている。
こういった状況であるので、国民の命とか生活を火山災害から守ることに、火山の監視や活動評価が非常に重要なこととなっている。それで令和5年に議員立法で改正された活動火山対策特別措置法に基づき、文部科学省に火山調査研究推進本部が設置された。ここで、火山に関する観測、測量、調査や研究を一元的に推進している。防災科研は、令和6年の4月からその火山本部の中核機関、実動部隊の形で活動している。
具体的には、次の項目がある。観測をベースにした研究開発である『火山調査観測』、観測データを一元的に集約して役立てる、データの流通システムを運用している『JVDNシステム』、火山活動に関して、地震と比較すると前兆現象が比較的分かりやすいが、噴火しそうで危ないという時に、機動的に対応するシステム・仕組みを行う『機動的な調査観測・解析』の3つ。それから今日の主なテーマである『火山噴出物分析分析センターの整備』となっている。
地球物理学と物質科学を両輪とした火山調査研究の加速では、『物質化学分析体制の構築』を、今後の火山調査研究における非常に基盤的なところとして進めている。達成すべき目標は、噴火に関与したマグマの性質やマグマの中のガスの変化を捉え、他のデータと組み合わせて噴火の様式とその推移を迅速に予測することだ。噴火の様式・規模やその推移の予測の向上に寄与し、火山地域における警戒避難対策等に貢献する考えだ。
それで、火山噴出物分析センターの整備等を行い、火山観測分析体制の強化を行っている。
火山噴出物分析センターの整備では、平時および噴火発生時に火山噴出物の分析を一元的につ継続的に実施する中核拠点を早急に整備するということで、今年度から取り掛かり、令和11年度にかけて整備している。10年度中にセンターでの分析を開始することを想定している。同センターは、特に緊急時において採取した噴出物を迅速に分析して、準リアルタイムで火山活動の推移を把握・予測することを行う。
平時においても、過去の噴出物の分析等を行い噴出物のデータベースを作成する。緊急時にどういったものが出ているか、そこと照らし合わせることによって、活動の評価、推移予測を行う体制になっている。
同センターが目指すことはこうだ。まず最初に水蒸気噴火が始まる。マグマから温められて地下水がグツグツお湯のように沸いて、それで最初の小規模な水蒸気噴火が起きてくる。さらにマグマ噴火が大きくなってくると、マグマ物質が含まれた火山灰が出てくる。この状況を把握することで、特に地下のマグマの位置や移動、爆発性を知ることが鍵になる。自治体における備えや住民の避難・対策につなげることができると考えている。火山噴出物、火山灰分析、火山ガスの分析。この分析フローを今後進めていくことが目指す姿だ。それで火山活動が活発になる兆候がある程度わかると考えている。
いろいろな情報を噴出物から取り出すために、18種類の分析機器を整備する計画を立てている。海外では火山噴火現象そのものはそんなに頻度が多くないが、世界にはたくさんの火山があって、活発な火山もあるので、そういった海外の火山研究機関と連携して分析センターも進める。
火山噴出物分析センターは、つくば(茨城県)の防災科研の敷地の真ん中辺りに3階建ての建屋を建て、分析センターを整備することで、計画を進めている。世界屈指の火山物質科学分析の中核拠点を目指して、取り組みを進める。
基調講演2は「高高度無人機による気象観測・予測技術と被災状況把握技術の開発・実証」と題して、牛尾知雄経済安全保障重要技術育成プログラム研究センター長が行った。
講演要旨は次の通り。
「経済安全保障重要技術育成プログラム」とは、内閣府主導のもと創設された研究開発事業である。わが国に不可欠な先端的な重要技術について、研究開発及びその成果活用を推進するものとなっている。これは、経済安全保障推進法に基づいて推進されている。
プログラムは、海洋、宇宙・航空、サイバー空間、バイオ、そして領域横断という5つの研究開発領域がある。その中で、防災科研で取り組んいるのは、宇宙・航空航空に属している。自立した宇宙利用大国の実現、安全で利便性の高い航空輸送・航空機利用の発展を行っている。
このプロジェクトの発足に先立ち、我々が応募した研究開発構想ではHAPS搭載型センシング技術、HAPSによる観測データの解析・情報処理技術を併せて開発することで、HAPSを活用した新たな観測技術の確立を目指すことだ。ここのプログラムを「高高度無人機HAPS」と呼んでいる。HAPSは、主にこれまで無線通信で研究開発が非常に活発に行われてきたが対して、防災科研はHAPSの防災用途の領域を研究する、開発することを考えている。
研究開発構想のひとつ目「HAPS搭載型センシング技術」は、HAPSから投下し、大気を鉛直方向に詳細に観測するドロップゾンデや、HAPSに搭載し、大気の状態、海況情報・海の異常物体の観測を高解像度で行えるレーダーの開発を実施する。ドロップゾンデ・レーダー等の小型化・軽量化・省電力化や耐環境性能の向上に取り組み、HAPS搭載の実証実験や妥当性検証を行う。
2番目の「HAPSによる観測データの解析・情報処理技術」は、適切な観測エリアを指示し確実な観測を行うとともに、送受信した観測データから、気象要素推定や物体等を検知するためのデータ解析、被災地の被害状況を自動抽出するデータ処理に関する技術の開発となっている。観測データの地理空間情報技術に基づく統合分析及び可視化技術の開発と、実証および検証を実施する。
成層圏は非常に気象的に静穏な環境が保たれており、その領域を飛行するプラットフォーム、これをHAPS高高度プラットフォームとに呼んでいる。ソフトバンクやエアバス等で、この領域を飛行する飛行航空機及びそのプロジェクトがすでに推進されている。
ところで、航空法に基づくHAPSの位置付けについては、日本の航空法による種別は、無人航空機と航空機に分類される。航空機は人が乗って航空の用に供することができるものとされている。この中に無線操縦航空機というカテゴリーがあって、操縦者が乗り込まないで飛行することができる装置を有する航空機となっている。一方、航空機に対する一つのカテゴリーとして、無人航空機がある。これは、航空の用に供することができるものであって、構造上、人が乗ることができないもののうち、遠隔操作または自動操縦により飛行されることができるものだ。例えばドローンとかラジコン機といったものはこの無人航空機に分類される。我々のプロジェクトは、このうち無操縦者航空機およびこの無人航空機も含むHAPS全体を高高度無人機と呼んでいる。
そもそもこのプロジェクトがなぜ重要なのか、その背景について。毎年繰り返される台風災害、豪雨災害が非常に重要な社会課題となっており、このより正確な予測が大きな日本社会における課題となっている。例えば、2024年に上陸した台風15号は非常に予測の難しい台風で、数日間、台風の予測される進路が大きく変わり、それに伴って甚大な被害が生じた。年を追うごとに予測精度は改善されているものの、やはり数日前の台風の例えば予測の路だけをとってみても数百キロの幅がある。こうした台風の予測、進路だけではなく、強度に関してはほとんど進展がない。この大きな予測幅を有する大きな原因は台風が生まれて、発達しながら進展する、この領域の観測が希薄なことにあることだ。
我々は、地上レーダーではカバーできない太平洋上の台風の構造や風速を観測することができれば、これらの予測精度の向上に大きく資すると考えている。この研究開発構想では、HAPSを活用したセンシング技術を確立し、開発した機器類をHAPSに搭載し、実際に成層圏を飛行しているHAPSから高い解像度の観測と観測したデータの送受信、解析の実証を行っている。そのために大きな目標を掲げた。
ひとつ目の「HAPS搭載型レーダー・ドロップゾンデ等のセンシング技術」は、HAPSからの大気観測に加えて、海面の監視が可能となる気象レーダー技術を開発することが大きな目標だ。さらにこの小型化、省電力化、成層圏下を想定した対環境性能の向上がある。高高度無人機は、極めて低い気圧や気温の状況にさらされるわけで、これまで地上での運用が主だった気象レーダーに関しても、大きなチャレンジングな環境下ということになる。こうした実証を行っていきたいと思う。そして、この気象レーダーの観測データから、降水域における降水水蒸気の鉛直分布、異物の有無を含む海面状況を解析する技術の開発、気象というよりは海面に存在する何らかの物体を検出し、その解析を行う。このレーダーでは捉えられない情報は、HAPSから投下して機動的な3次元観測センサーとなるドロップゾンデの研究開発。これが主要な目標となる。
一方の「HAPSによる観測データの解析・情報処理技術」は、受信した観測データから、災害による陸上の被害箇所の自動抽出、物体検知や異物の有無等を含む海面状況の自動を行うデータ解析技術の開発を行う。それからHAPSに搭載したセンシング機器に対して、より適切なエリアの観測を指示する技術の開発と、観測データをリアルタイムで安全に送受信する通信技術の実証である。さらにこれらで開発されたデータ解析結果を活用し、災害を把握する情報として分析を行うためのデータ解析を、他の災害情報と統合させて地図上に可視化する技術の開発ということになる。
実際に高高度無人機を飛ばして、各種の実証を行いたいと思う。こうした高高度無人機に対して的確に観測を指示して、そこから被災状況の把握が可能な情報プロダクトの生成可視化を行う技術を開発する。実際の観測を通して実証を目指すことが重要なポイントになっている。相互に関連したシナリオを描いている。気象条件の把握、実際のデータを取得が気象予測モデルのインプットとなり、それにより気象予測精度の向上が図られることになる。気象予測精度の向上に基づいて、災害予測の精度向上にダイレクトにつながるわけだ。発災前から避難や警戒態勢の構築等に貢献する。
高精度な、あるいはこれまで実施することができなかった気象観測技術と、それをインプットとした気象モデルを通じた気象予測の精度、災害予測の精度向上に基づき予測される被害域というのを特定し、このHAPSのみならず人工衛星も統合した形での運用技術といったことを考えている。
こうしたことによって、一旦被害が出た場合は速やかに被害域の抽出を行い、情報プロダクトを生成し、そして災害対応現場にその情報を伝達し、活用してもらう将来像を描いている。
この記事を書いた記者
- 元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。
最新の投稿
Uncategorized2026.02.28防災科研の火山噴出物分析とは
情報通信2026.02.27阪急阪神百貨店に富士通のPOSソリューション
情報通信2026.02.27日立、AIエージェントによる人手依存解消
CATV2026.02.27ミハル通信、極超低遅延伝送「遠隔じゃんけん」