【CATV特集】ミハル通信 中村社長に聞く

「電波タイムズ」は新春を迎えて、ミハル通信株式会社の中村俊一代表取締役社長に今年の抱負などを聞いた。中村社長は「世界最高水準の極超低遅延映像伝送システムのELLシステムは、コーデック遅延を30ms以下に抑えることや、非圧縮PCMオーディオを最大64ch伝送できるなど、非常に期待が高まるソリューション」と述べ拡販に注力すると述べた。 ――昨年(2022年)を振り返って、ケーブルテレビ業界でお感じになったことは何でしょうか 「昨年も新型コロナ感染症拡大でお客様との面談がなかなかできませんでしたが、世の中も徐々にウィズコロナに慣れたのか、お客様とのコミュニケーションも随所に取れるようになりました。ケーブルテレビ業界をみると、10年ほど前から始まった伝送路のFTTH化、地域ケーブルテレビネットワーク整備事業のリプレイス需要が出ています。また、ヘッドエンド設備老朽化によるリニューアル需要が出ています。さらに高度ケーブル自主放送への動きとしてACAS対応機器も市場が活性化されてきました。ネットワークの高度化ではケーブルテレビのオールIPなどに備えて1Gから10Gへのマイグレーションも動きました。他方で、大きな問題が世界的な半導体不足です。電子部品の突然の生産停止や納期が確定しない、価格は上がるなど2022年は部品不足で大変悩んだ年でした。部品不足で納期が確定しないことから機器の納期の遅れが増えたと感じました。当社では対策として私どもの機器の部品で生産停止になった部品、供給が不安定な部品を70機種ぐらい設計変更して備えましたが、次から次へと部品不足が発生しました。昨年はウクライナ情勢によるバリューチェーンの不安定さや円安傾向が際立つなど、ほんとうに不透明な1年だったと思いました」 ――昨年を振り返って、ミハル通信の事業活動について感想をお聞かせください 「2021年あたりから始まった大型の光化や補助金案件、地方自治体のリニューアルなど、同軸システムのFTTH化への更新といったところは根強い需要があります。こうした老朽化に伴うデジタル機器の更新案件と、競技場や競輪・競馬・競艇場での館内自主放送システムもリニューアル時期で、全国的に納入が進んでいます。保守事業では『M―3』(エム・トリプル)サービス、これは当社製ヘッドエンドシステムの機器情報、ステータスをリモート監視・運用支援する管理プラットフォームですが、順調に伸びています。好調の理由は、コロナ禍でなかなか外に出られない、テレワークのお客様が増えてきた、ケーブルテレビ機器の技術的なところが明るくない人も増えてきたようです。そういう人手不足を補うのに、リモートで診断してそれをお伝えするという時代にマッチしたサービスがよかったと思います」 ――昨年の「4K・8K映像技術展」「Inter BEE 2022」などでは、ミハル通信の8Kエンコーダー/デコーダー「ELL8K」システムが世界最高水準の極超低遅延8K映像伝送で注目を集めました。今後の製品事業戦略をお聞かせください 「8K極超低遅延映像圧縮伝送システム『ELL8Kシステム』はミハル通信製エンコーダーとデコーダー間のコーデック遅延を30ms以下に抑えることが実現可能な世界最高水準の超低遅延エンコーダー/デコーダーです。複数拠点向けにマルチキャスト配信が可能です。昨年から特に力点を置いたのが音声です。非圧縮PCMオーディオを最大64ch伝送できます。エンターテインメント系などお客様層がかなり広がりました。合わせて8Kのお客様と4Kのお客様がそれぞれ何を望まれているのか、ニーズが見えてきましたので、極超低遅延映像圧縮伝送システムで4K/2Kに対応した『ELL Lite』極超低遅延映像伝送システムを開発しました。『ELL8K』の遺伝子を引き継いだ極超低遅延4K/2K伝送エンコーダー/デコーダー。使い易さを求めた小型サイズで、極超低遅延・音声多chが実現する圧倒的没入感が特長です。昨年のInter BEE 2022では実際にマイクとヘッドフォンを使用して音声の低遅延を体感してもらえるデモンストレーションを行いました。幕張と大阪間の極超低遅延音声伝送を体感していただき、音声の遅延がわずか20ms以下を実現しました。音の分野で従来とは違った製品価値が出てきました。新しい商圏への展開も期待できます」 ――「ケーブル技術ショー2022」では、ダイバーシティ地デジシグナルプロセッサー、FTTHシステムなどを出展されました。事業展開の展望をいただけますか 「従来のダイバーシティ地デジシグナルプロセッサーでは、ガードインターバル以内の遅延補正が限界で、SFNのみ対応、設置作業にも時間を要していました。最新のダイバーシティシステムでは2000μsまで遅延補正が可能で外部に遅延器が不要、MFNにも対応し、設置作業も容易になりました。地方からのニーズが高くて、九州地方や四国地方、山口、神戸、北陸地方で引き合いがきています。受信点の強靱化という意味で無瞬停で受信点を切り替えられるので、実績をどんどん積んでいます。FTTHシステムは光ファイバー増幅器の内製化が進んでおり、円安の影響もありましたが、海外製品とも価格的に勝負できる形になってきました」 ――社長に就任されて4月で6年目になります。理想とされる会社像に向けて、ここまでの手応えはいかがですか 「昨年もお話ししましたが、いちばん感じ取っているのは会社が明るくなってきました。製造ラインの自動化で生産効率が向上したことや、社内の申請手続きの電子化を推進したことで、余った時間をコミュニケーションの場としました。対話できるような環境を作っていったことで〝会社力〟が上がってきたと感じています。今後も人材育成を進めていきたいと思います。加えて情報セキュリティーの強化、IRの強化も継続して推進します。情報セキュリティーの強化では『情報セキュリティー・システム推進室』という組織を立ち上げました。IRの強化では『事業戦略企画室』を立ち上げました。人員を横串し式に配置して、分かりやすい経営を目指しました。自動化ではRPAを使った業務の効率化がかなり進んでいます。製造ラインでもペーパーレスを徹底して手入力を無くすという方式に邁進しています。今までのように手に職をつけることだけがものづくりではありません。現場で携わっているみんなから意見が出て、どうしたらもっと改善するかと考える時間をなるべくつくってあげたいと。これは今、はやりの『リスキリング』の一種ともいえますが、DXなどによる大きな変革の波に適応するためにも、ある仕事に専任して、職人気質で細かいところまでひとつの事に没頭して仕事をする時代ではないと思います。仕事の業態を変革するというか、人材教育も含めて、新しいものづくりの仕方も、重要なテーマになっていくのではないかと思います。SDGsへの対応も進めています。中期ビジョンから〝持続可能な開発目標〟を掲げて、環境面でプラスチックの問題、紙の消費といったテーマを絞りながらみんながだいたい醸成したところで、もっと本格的に入っていくというソフトランディング的な形で進めます。機器でいえば光化や小型化することで低消費電力につながります。設計も環境順応型はもう数年前から始めています。会社全体でそういった取り組みを徐々にマインドを高めながら、進めていくことで地球への貢献につながるでしょう」 ――今年(2023年)の抱負をお聞かせください 「まず納期の遅れに関しては、しっかり対策を取りながら着実に新製品を供給していく。もうひとつは、共通プラットフォームを作って、製品自体のBCP化も進め、部品変更にも対応し易い製品設計を行う。またソフトウェアに重点を置いたモノづくりに少しずつ移行していく。ハードウェアに依存していたところからオープンソフトウェアといいますかフレキシブルなものづくりを行う。RF系とIP系のインターフェースに分かれるので、ソフトウェアをどう介在させて機能を高めていくか取り組んでいきます。企業方針としては、情報セキュリティーの強化を引き続き推し進める。ウェブ戦略をしっかり行う。これは先ほどの保守事業も絡んできます。企業広報の重視もあります。セカンドブランド『@かまくら』も浸透して、おかげさまでお客様とのコミュニケーションの良化につながりました。ブランド戦略もここまで成果が出ていますので引き続き注力していきます」