宇宙空間のプラズマ波動源を可視化 電通大・名大等、リング状に拡大する脈動オーロラ発見

 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所(極地研、東京都立川市、野木義史所長)によると、電気通信大学大学院情報理工学研究科情報・ネットワーク工学専攻/宇宙・電磁環境研究センターの細川敬祐教授、及び名古屋大学、極地研、京都大学、金沢大学、東北大学などを中心とする国際共同研究グループは、フインランドのソダンキュラに設置されている全天型オーロラ撮像装置と、地球磁気圏を観測する探査衛星「あらせ」(ERG)による観測によって、これまでに報告例のない「リング状に急速拡大する脈動オーロラ」の観測に成功した。

500ミリ秒毎に取得されたオーロラの連続画像


 宇宙や地上からの観測を統合的に解析することで、この巨大なリング状のオーロラは、宇宙空間で発生する自然のプラズマ波動である「コーラス波」の波源領域そのものが急速に拡大することによってつくられたものであることを突き止めるとともに、地上からの高時間分解能光学観測により、オーロラの拡大とコーラス波の検出タイミングの遅延が一致することも明らかにした。この現象は、宇宙空間のコーラス波の発生源の時空間変動をスクリーンのように映し出している可能性があり、脈動オーロラを地上から観測することが宇宙空間のプラズマ変動のイメージングに繋がることが期待されるとした。
 脈動オーロラは、極域においてオーロラサブストーム(オーロラ爆発)の回復相に現れる、数秒から数十秒の周期で明滅を繰り返すパッチ状のオーロラ。地球の磁気圏赤道付近の宇宙空間で発生する「コーラス波」と呼ばれる自然のプラズマ波動が、高いエネルギーを持った電子を錯乱させ、大気へと降下させることによって発生する。これまで、脈動オーロラの時間変化については多くの研究が行われてきたが、空間的な形状がどのように変化するのか、またそれを決定づける宇宙空間の要因が何なのかは解明されていなかった。
 この研究は、フインランド北部のソダンキュラで運用されている高感度・高時間分解能の電子倍増型CCD(EMCCD)全天カメラと、同時刻に磁気圏を飛翔していた「あらせ」の観測データを組み合わせることで実施した。EMCCD全天カメラは、コンピュータによる自動制御によって連続的に観測が行われているが、同成果は2017年3月に「あらせ」がカメラの視野内において観測を実施した際に得たデータを解析することによって得られた。
 観測成果を見る。全天カメラの画像から、パッチ状オーロラが放射状に全方位へ拡大した直後に中心に暗い穴(ダークホール)が現れ、細いリング状の構造を形成する未知の脈動オーロラを撮像することに世界で初めて成功した。このリングの拡大プロセスは非常に速く、わずか10秒間の間に完了しており、電離圏高度における拡大速度は秒速数10km以上に達していた。このような短時間でのオーロラの形状変化の可視化は、高感度カメラによって1秒間に100枚の画像を取得する世界最速のオーロラ観測によって初めて達成された。

円弧状に拡大するオーロラの発見メカニズムの概略図


 また、「あらせ」の観測データでは、コーラス波の連続的な強度上昇が記録されており、パッチ状オーロラの中心から少し離れた領域に位置していた「あらせ」が、リングの拡大に一致するように、数秒の時間遅れをもって、コーラス波の強まりを検出していたこことが確認された。このことは、パッチ状脈動オーロラの拡大プロセスが、宇宙空間におけるコーラス波の波源領域そのものの急速な拡大を反映していたことを示している。さらに、研究グループは、この急速な波源の拡大を引き起こす要因として、プラズマ中を伝わる磁気流体力学波動の一種である「速進磁気音波(ファストモード波)」が関与している可能性を提唱した。
 この研究では、地上からの高解像度の観測によって、磁気圏におけるプラズマの擾乱が波動を通じて急速に伝播し、それが超高層大気で観測されるオーロラの形状を直接的に制御していることが明らかとなった。これにより地上に設置したカメラによる広域のオーロラ観測網を用いることで、地球周辺の放射線帯などにおける高エネルギー電子のダイナミクスを遠隔からモニター(可視化)する新しい手法への応用とともに、近年、木星探査機によって木星の極域オーロラでも同様の円状に拡大する構造が発見されており、同研究のアプローチは他の惑星におけるオーロラの構造形成メカニズムの理解にも繋がることが期待されるとした。
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 ※「あらせ」(ERG:Exploration of energization and Radiation in Geospece):地球の放射線帯(ヴァン・アレン帯)の高エネルギー電子の生成・消失プロセスの解明を目的とした、日本のジオスペース探査衛星。
 ※脈動オーロラ:極域においてオーロラサブストーム回復相に現れ、数秒から数十秒の周期でパッチ状に明滅を繰り返すオーロラ。
 ※コーラス波:地球の磁気赤道面付近の宇宙空間で発生する自然の電磁気的なプラズマ波動。高エネルギー電子を散乱させ、降下させる役割を持つ。