メディアリンクスなど4社 国内初のPTPを利用した放送TS信号伝送実験に成功

 メディアリンクス(神奈川県川崎市、菅原司社長)、アストロデザイン(東京都大田区、難波豊明社長)、国際電気(東京都港区、佐久間嘉一郎社長)、セイコーソリューションズ(千葉県千葉市、関根淳社長)、毎日放送(大阪府大阪市、虫明洋一社長)は、2025年10月5日に、同一チャネルのFPU2対向によってPTP非対応のIPネットワークを構築し、PTPを利用した放送TS信号を伝送する実験に成功したと発表した。
 今回の検証実験では、国際電気社製の7GHz帯、10GHz帯FPU(FR―ZS200)を2対向使用し、双方向にTS伝送可能な回線を、同一チャネルのマイクロ波で構築した。複数の送信機を同一チャネルで運用するとお互いに干渉するため、設置環境によって受信機は希望波を受信する事ができない。そのため、従来は双方向でそれぞれ異なるチャネルで運用する必要があった。そこで、国際電気と毎日放送は、同一チャネルで混信していてもデジタル処理によって干渉波を除去できるFPUを開発した。これにより、FPUで使用するチャネルを減らせ、チャネルの利用効率を向上させることが可能。
 FPUのTS入出力をIPに変換するための装置(IPoverTS)は、アストロデザイン社製のCX―5548Aを使用した。PTP伝送に対応した特殊な機器ではなく、汎用的な機器を使用して、FPUによるIP回線を構築した。メディアリンクス社製のIP伝送装置(MDP3020 SFN)を使用し、16・6km離れた生駒山から毎日放送本社へ、PTPと放送TSを伝送した。放送TS信号をMDP3020 SFNでSMPTE ST2022―2に準拠したIPパケットにして伝送、PTPはセイコーソリューションズ社製のPTPグランドマスタークロック(TS―2950)で、SMPTE ST2059に準拠したPTPにて伝送している。
 PTP非対応のIPネットワークでは、パケットの伝送遅延が変動し、PTPに求められるマイクロ秒単位の時刻同期精度で伝送することは不可能だが、受信側となる毎日放送本社に、伝送遅延の変動を平準化できるRPTP装置DB3200を使用することによって、PTPを利用した放送TS信号のFPU伝送を実現した。
 今回の実験は、メディアネットワークの高い技術力を持つメディアリンクス、TS処理装置の実績が豊富なアストロデザイン、FPUの新たな取り組みを長年継続している国際電気、放送業界のIP化システムへの移行におけるPTP 同期をサポートするセイコーソリューションズ、近畿広域圏で地上基幹放送事業を行う毎日放送の5社が協業した。
 地上デジタル放送中継ネットワークを構成する伝送方式を多様化、冗長化する事で、今まで以上の強靭化が可能になる。災害時などのBCP対策にも有効な伝送手段になるよう、引き続き検証に取り組んでいく。
 *FPU (Field Pickup Unit)
 テレビジョン放送用の映像と音声を、取材現場から無線で伝送する装置。
 *PTP(Precision Time Protocol):高精度な時刻同期を行うための次世代プロトコル 1マイクロ秒(100万分の1秒)以下の時刻同期確度が担保でき、時刻はもちろん、周波数基準として利用可能。
 *放送TS(Transport Stream)信号:地上デジタル放送やBSデジタル放送で用いられる伝送信号。映像・音声・字幕・データ放送などの信号を一括しMPEG―2 TS形式でパケット化。
 *IPoverTS:IPパケットのデータをMPEG―2 TSに組込む方式。RFC 4326で定められているULE Bridge を利用し、TSの伝送路を使用してIP回線を構築。
*SMPTE ST2022―2
IPネットワークを介して番組素材信号を共有するための伝送に関する標準規格。
*SMPTE ST2059
スタジオサブなどで使われているBB(Black Burst)信号の代わりとなる技術。SMPTE ST 2110―10の中で映像音声のタイミング技術として定義。
*RPTP(Resilient PTP)
PTP非対応のIPネットワーク上で、PTPを安定同期させる技術。
メディアリンクス、インターネットイニシアティブ、セイコーソリューションズなどによって構成されるRPTP Allianceによって確立されている。

この記事を書いた記者

アバター
成澤誠
放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。