【放送ルネサンス】第42回:今道 琢也さん(元NHKアナウンサー/ウェブ小論文塾長)

元NHKアナウンサー/ウェブ小論文塾長
今道 琢也 さん
今道 琢也(いまみち・たくや)氏。1975年生まれ。大分県出身。京都大学文学部卒業後、1999年4月にNHK入局。アナウンサーとしての勤務を経て2014年に独立し、インターネットでの文章指導専門塾「ウェブ小論文塾」を開講する。著書に「テレビが終わる日」(新潮新書)など。
今道 琢也さん インタビュー
Contents
- 1 ―ご自身と放送との関わりについて
- 2 ―思い出の番組は
- 3 ―元々報道を志していたのか
- 4 ―放送開始から 100年を迎えて放送が果たした役割に思うところは
- 5 ―NHKで働いていた当時と今とで意識の変化はあるか
- 6 ―放送の現状に課題として考えるところは
- 7 ―なぜそういう状況になったと考えるか
- 8 ―正に若者の間ではテレビ離れの風潮が出ている。この先放送の未来をどう考えるか
- 9 ―変化に対応しきれていないのか
- 10 ―逆境とも言える中でテレビをはじめ放送が生き残る道は
- 11 ―旧ジャニーズやフジテレビの問題でコンプライアンスもが問題視されている
- 12 ―兵庫県知事選や都知事選、参院選のように選挙報道も変わりつつある
- 13 ―ネットは放送に置き換わるか
- 14 ―昔と比べて就職先としての人気が低下し、人材流出も進んでいる
- 15 ―ネットフリックスなどの配信事業者の存在感も増している
- 16 ―コンテンツとしてどれだけ価値をつけていくかが課題か
- 17 ―あらためて今の放送に対する提言があれば
―ご自身と放送との関わりについて
私に限らず当時の人は家に帰れば必ずテレビをつける。それくらい身近な存在だった。学校に行けばみんな昨日の番組見た?みたいな話は欠かせなかった。
―思い出の番組は
NHKに入ったきっかけとしての番組が1つあるとしたら「地球大紀行」。地球の誕生からどう生物が進化していったとか、そういうのを 1年間で 12回シリーズでやっている番組があって、それは非常に印象に残っている。
子供のころは、人間よりも地球とか宇宙とか植物の進化とかの方に興味があって。その番組の中でわかるようになった。今でこそ温暖化が言われてるが、シリーズで地球環境の問題を扱ってて、それが元というわけではないが中学の自由研究で環境問題について調べてレポートを作ったり。自分の興味に繋がったという影響はある。
―元々報道を志していたのか
絶対という感じではなかった。就職活動で受けた会社もバラバラで、もちろん NHK は第一志望だったが、それ以外にもメーカーや別の会社とかも受けたので、必ず報道という考えではなかったのが正直なところ。高校の文化祭で司会をやったときにウケが良かったことでアナウンサーの仕事に興味が湧いた。そこと昔見ていた「地球大紀行」とかが結びついて、番組作りに関わりたいという気持ちになったと思う。
―放送開始から 100年を迎えて放送が果たした役割に思うところは
今の時代、特に SNSとかでは真偽不明の情報が流れている。中にはハッとするようないいことを書いてる人もいるが、情報を比較検討して何が正しいかを判断する、情報リテラシーの能力がものすごく問われている時代だと感じる。
Twitter(X)や YouTubeは自分が興味を持っていることを検索するから好きな情報しか出てこない。これに対してテレビ局などには問題提起する役割がある。例えば、ウクライナの戦場で今何が起きているかとか、温暖化が深刻になってきているとか。自分が今まで気づかなくても、こういうことは大事だということを再認識させてくれる役割がある。
―NHKで働いていた当時と今とで意識の変化はあるか
客観的に見ることができるようになったというのはあるかもしれない。会社の中にいると、デスクや編成等、放送で喋る最終的な決定権を持っている人の意向と違うことを言うわけにはいかない。だから自分の中でも、組織の一員としてしか放送を見ていないということはあった。今辞めて自由な立場から見てここはおかしいというところは当然見えてくる。
典型例が旧ジャニーズ問題。私ももちろん当時放送局にいたので批判を受ける立場でもある。私は検証番組を全部見たが、男性への性加害の意識が甘かったということと、ゴシップであって自分たちが扱うことではないと思ってしまっていたことがどこの番組でも指摘されていた。それで納得した一般の人はどれだけいるかわからない。
ワイドショーでは毎日週刊誌のゴシップを扱っているわけで、なぜ扱わなかったかは当然疑問として残る。率直に考えれば自分たちにとって損になることはやらなかったと思える。私自身組織の中にいたら、そこに巻かれていったとは思う。これはやっぱりおかしいというのは、辞めた今だから見えてくる。
―放送の現状に課題として考えるところは
今はものすごく大きな曲がり角。マスメディアが必要とされ続けるかどうかという、大きな転換期が来ている。これまではマスメディア以外で広く情報を発信する方法がなかった。みんながテレビを見て、みんながテレビを信頼して、という時代がこの百年。
今はインターネットが発達して、誰でも情報を発信できる。誰でも番組を制作して流せる。一般の人もテレビよりもYouTubeだったりTikTokだったり、Twitter(X)の中で流れる動画なんかをより好むようになってきている時代。特に若い世代では。だから今後も本当にマスメディアが成り立っていくのかという境目に来ているのかなと思う。
―なぜそういう状況になったと考えるか
今まではマスメディア以外に情報を発信する方法がなかったが、技術の進歩で、誰でもそれができるようになった。
YouTubeとかは内容がすごく細分化されていて、その人にぴったり合ったチャンネルがあるから、そっちの方が面白いよね、ということになる。テレビは 100 万人や 200万人が見ることを前提にして作っているから、どうしても総花的になってしまい、そこが今のマスメディアの限界になっている。
―正に若者の間ではテレビ離れの風潮が出ている。この先放送の未来をどう考えるか
楽観的には見られない。マスメディアからパーソナルメディアというものすごく大きな流れが生まれる中で、テレビにできることは狭まっていかざるを得ない。例えば災害報道や事件報道だったりは個人では十分なことができないし、何が正確な情報かを判断し、飛び交う情報を整理する役割もあると思う。そういうところはこれからもテレビの役割としては残るだろう。
正しい情報が何なのかを考え、判断するための比較する材料を提供する役割。これはまだパーソナルメディアだけに任せるわけにはいかないし、テレビに優位性がある。そういうところは今後もテレビが果たしていかなきゃいけない役割だ。
ただ、例えばこれまで放送してきたバラエティとかエンターテイメント、スポーツ、ドラマなど全てのジャンルを必要と思ってもらえるかは疑問。一つにはYouTubeとかで個人が発信できるようになったのが大きいし、もう一つは、AmazonプライムビデオとかNetflixとかの配信事業者がドラマとかスポーツ中継とかもどんどんやるようになってきている。
こうした中で、これまでの規模を維持するのは難しい。どんな産業でもサイクルがある。勃興期があって成長して大繁栄して。でも別の新しい産業が生まれて成長していく。今はそこに差し掛かっている。今までと全く同じようにテレビが大きな影響力を持って繁栄を続けるのはもう難しい。
―変化に対応しきれていないのか
私自身も含めてだが、YouTube が登場した時は素人が作ってるものに負けるわけがないという目で見ていた。今から考えれば、その時点で本当にまずいと気付く必要があった。FUJIFILMという会社は、デジタルカメラが登場した時に、もうこれからフィルムがなくなるかもしれないということを予見して、事業構造を根本から入れ替えたと聞く。
フィルムが売れなくなったら自分たちに何ができるかを考えた結果、医療や化粧品などの分野に大胆に事業構造を転換し、今でも高収益を維持している。
私が子どもの頃、1990年代とか 80年代の時期はテレビは圧倒的に力があった。テレビで取り上げられれば人が集まったし、取り上げられることが信用される一つのバロメーターにもなっていた。そのような繁栄の期間が何十年と続いたために改革が遅れてしまった。
―逆境とも言える中でテレビをはじめ放送が生き残る道は
一つには過去のコンテンツをもっと活かしていくこと。テレビ局にはものすごい数のコンテンツがあり、完成された番組だけじゃなくて、入手したままの素材もいっぱいある。そういう素材は貴重で一部の人には刺さったりもする。
昔の古い列車が走っている映像とかでも、検索して見られていたりする。例えばテレビ局全体でポータルサイトを作って、そこにいろんな素材を上げて広告料をとるとか。それこそ家庭用ビデオカメラもまだ普及する前の時代なら、過去の膨大な映像は非常に貴重。今みたいにスマホでなんでもかんでも撮れるという時代ではない。興味を持って見る人は必ずいるので、どんどんアップしていけばそれなりのビジネスにはなると思う。
―旧ジャニーズやフジテレビの問題でコンプライアンスもが問題視されている
私は末端の局員だったが、テレビは他の会社と比べると雰囲気が緩いという印象はある。
例えば取材に行ってくるとホワイトボードに書いておけば、それ以上詮索されることはない。それは当たり前に考えるべきではないかもしれないが、テレビ等はガチガチに管理してしまうと面白いアイデアが出てこない。私も外を歩いていて面白いアイデアを思い付いたことがあった。
だから管理し過ぎたらいいアイデアが出てこないというのはあるが、その自由さが変な方向に行くと、例えばフジテレビの不適切会合や経理とかいう話が出てきてしまう。いい意味で言うと自由な発想を大事にする。そうでないと面白い番組も出てこない。一方で、悪用するとおかしな方向に行ってしまいやすい。
―兵庫県知事選や都知事選、参院選のように選挙報道も変わりつつある
本当に大変な時代になってきている。選挙についても真偽不明の怪しい情報を確認せずに信じる人がたくさん出てきているのは非常に怖い。だからこそ放送局の存在意義はある。これは正しくてこれは違う、というのを調べるノウハウがあり、そのための人材もいる。そうでないと、本当に混乱の極みで民主主義という土台が揺らいでいくことになる。
だから放送局には、何が本当で何が正しくないかをきちんと調べて報道してほしい。何かを隠したり、都合の悪いことを言わなかったり、といった風に見られてしまうと信頼されなくなる。自分たちにとってマイナスなことでも、これはおかしいと思ったら伝えるべき。そうでないと、SNS の方がよくわかる、ちゃんとしていると思われてしまう。報道機関としてのファクトチェックの役割が重要。
―ネットは放送に置き換わるか
放送がこれまでやってきたことを、今はネットで個人がやってる状態。それでテレビを見る人は減っている。個人が流しているものの方が、より自分の興味に刺さって面白いとなればそっちを見るようになる。じゃあテレビが完全になくなっていいということではなくて、テレビも個人も両方が必要。少なくとも報道に関しては、ネットで個人が流してる情報だけというのは無理だし危険。ちゃんと事実関係を調べるノウハウが必要になる。
あるいは調査報道とか、誰もが興味を持っていなくても大事なことを掘り下げたりするような、そういうノウハウや機能を持っているテレビは必要。
―昔と比べて就職先としての人気が低下し、人材流出も進んでいる
今はとても厳しい状況。キー局はまだだと思うが、どこも人手不足の状態で才能ある人材を集めるのは難しくなっていると聞く。理想論かもしれないが、愚直に誠実にやっていくしかない。コンプライアンス意識を高めて、自分たちに都合の悪いところも誠実に向き合って信頼されるテレビ局になるしかない。そうすればメディアを志望する人たちは絶対いる。
―ネットフリックスなどの配信事業者の存在感も増している
資金力が違う。アマゾンにしてもNetflixにしても、何兆、何十兆という売り上げがある中でやっている。日本のテレビ局全体で見ると、不動産とかで収益維持はできているが、広告収入は長い目で見ると落ちてきているし、 NHKも受信料を下げろと言われている状況。その中で競争するのはとても厳しい。今は違うかもしれないが、昔は残業もすごかった。あるディレクターは就職して初めの半年間で家に帰ったのは3日だけという話もあり、それが当たり前という風潮もあった。今はそれじゃ集まらない。
―コンテンツとしてどれだけ価値をつけていくかが課題か
改めてテレビでしかできないことを再定義するしかない。一つにはさっきも言ったように事実関係を精査して正しいものを流す、あるいは社会で興味を持たれてなくても大事なことを掘り下げる調査報道。そういうところを掘り下げて強化していくなら見る人も絶対いる。それ以外のジャンルでもテレビしかできないことは何だろうというのは考えていくしかない。テレビにしかできない価値は何かを再定義して強みを放送していくしかない。
―あらためて今の放送に対する提言があれば
正確な情報や比較材料を提供するとか、テレビにしかできない、テレビがやらなきゃいけないことはまだいくつもあると思う。そこを真剣にやってもらえたら。今までのように都合の悪いことは隠せばわからないという時代ではない。 SNS でどんどん流れている時代だからこそ、コンプライアンスとか信頼性というところを真剣に認識してやっていただきたい。
そうすればこれからもテレビは必要とされる。私自身テレビを見る時間は大幅に減ったとは言え、まだ面白い番組があればこれからも見たいとは思っている。そういうものを出していただければと思う。
この記事を書いた記者
- 主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。
最新の投稿
放送ルネサンス2025.10.03【放送ルネサンス】第42回:今道 琢也さん(元NHKアナウンサー/ウェブ小論文塾長)
情報通信2025.10.03AI活用した新規事業企画を提案、首都圏国立大学合同ハッカソン発表会
情報通信2025.10.03大型XRシステムを秋田大学へ納入、フォーラムエイト
PR記事2025.10.02東京ゲームショウ:ROOX、VR睡眠専用まくら「ぶいすいーと」を展示
本企画をご覧いただいた皆様からの
感想をお待ちしております!
下記メールアドレスまでお送りください。
インタビュー予定者
飯田豊、奥村倫弘、亀渕昭信、川端和治、小松純也、重延浩、宍戸常寿、鈴木おさむ、鈴木謙介、鈴木茂昭、鈴木秀美、
西土彰一郎、野崎圭一、旗本浩二、濱田純一、日笠昭彦、堀木卓也、村井純、吉田眞人ほか多数予定しております。
(敬称略:あいうえお順)