高速データ通信と鍵生成との共存に成功 NICTと東芝・NEC

 東芝、NEC、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、量子暗号通信分野において、量子鍵配送(Quantum Key Distribution、QKD)信号を、次世代情報通信基盤として期待される「IOWN」のオール光ネットワーク向けのシステム環境で多重伝送し、鍵生成を行う実証実験に世界で初めて成功したと発表した。将来的に広域かつ低コストで量子暗号通信サービスの提供が期待され、より安全な通信インフラの実現に貢献するとしている。
IOWNはNTTが提案し、超高速・低消費電力・低遅延の通信を実現する次世代情報通信基盤の構想。実証では、IOWNを実現するネットワーク基盤として提案されているオール光ネットワークOpen APN(All-Photonics Network)の構成機器となる光伝送装置を用いた大容量光伝送システムをNICT量子ICT協創センター内に構築し、通常の高速データ通信に加えて、東芝とNECが持つ異なる方式のQKD信号を同一伝送区間で多重伝送する実験を行った。
 QKD技術は、暗号通信に必要な〝鍵〟を情報理論的に安全に共有できる技術。その安全性は量子力学の原理により担保されており、伝送路中の盗聴行為を確実に検知することで通信を行う2者間で安全な鍵共有が可能とされる。
 QKD技術により共有された鍵を利用した暗号通信を幅広い分野で活用し、将来の安全・安心なネットワーク社会を実現するためには、主要都市間レベルのQKDネットワークの構築が必要で、QKDネットワークの構築に向け、現在世界各地で潜在的な利用者向けにトライアル環境の整備・提供・運用試験が進められている。
 これらネットワークは、鍵生成速度の最大化のため、単一光子レベルのQKD信号を理想的な条件で伝送する専用のダークファイバを利用し、データ通信用光ネットワークとは異なる運用ルールで管理される独自のインフラとして構築されてきた。しかし、専用インフラではダークファイバ確保や特殊な管理・保守手順が必要なため導入・運用コストが高く、ネットワークのさらなる規模拡大や、ユーザ向けサービスの広域にわたる普及の制約となる可能性がある。
 QKDネットワークを広域かつ低コストに導入するためには、専用のダークファイバによる独自のインフラを構築するのではなく、通信キャリアにより広域展開されるデータ通信用光ネットワークに共存・多重化する形でQKDネットワークを実現するアプローチが効率的で、特にQKDサービスの普及に向けて、Beyond 5G時代の次世代ネットワーク基盤として期待されるIOWN Open APNでも動作させることが重要という。
 今回の実証は、通信キャリアが運用する基幹系光ネットワーク環境を想定して実施。IOWN Open APNの構成機器としてNECが提供するオープン光トランスポート装置「SpectralWave WXシリーズ」の光伝送装置を伝送路に接続し、通信キャリアの基幹系光ネットワークへの適用が想定される波長帯であるC+Lバンド対応ROADMシステムをNICT量子ICT協創センターが提供する試験環境に構築。データ通信用の大容量光信号と2つの異なる方式のQKD信号を同一伝送区間に多重化した共存伝送を実施した。
 QKDの方式として、東芝は量子力学により担保された情報理論的に安全性が証明されているBB84方式を、NECはデータ通信帯域での多重化や小型・低コスト化が容易であるCV方式を採用。2つの異なるQKD信号と、それに合わせて送受信される制御用光信号を、光伝搬方向が異なる2心の光ファイバそれぞれに収容。さらに、通信キャリアの基幹系光ネットワークで実際に使用される環境を模擬するため、同一ファイバで、CバンドおよびLバンドの波長帯全域に光出力+17dBmで、伝送速度47・2Tbpsに相当するダミーのデータ通信用光信号とQKD信号を多重化し、各信号の波長が干渉し合わないように波長を割り当てる制御をして、25kmの伝送を行った。
 この条件下で、8時間連続で2つの異なるQKD方式による同時鍵生成に成功。また、CバンドおよびLバンドの帯域内に配置した1波長あたりの伝送速度400Gbpsおよび800Gbpsの高速データ通信用の実信号をエラーフリーで伝送しながら、単一光子レベルのQKD信号と共存できることを確認したという。
 本実証結果は、IOWN Open APNとして将来展開が期待される基幹系光ネットワークで、複数の異なる方式を同時に適用してより可用性の高いQKDを実現できることを示し、高信頼かつ広域なQKDネットワークが低コストに導入できることが期待できるという。

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kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。