先駆け―未来への方程式― アフリカで通信インフラを展開する「Dots for」

 アフリカを始めとした開発途上国、特に地方部では、分散して点在する小規模集落に大多数が居住しており、経済的・地理的な要因から通信・デジタル化の波から取り残されている。通信やデジタルの利便性を享受できていない人々はデジタルデバイドと呼ばれる状態にあり、世界で35億人がその状態にあると言われている。この状態は、農村住民とそれ以外の間に大きな情報格差と機会格差を生み、ひいては深刻な収入格差を生む。
 株式会社Dots for (東京都港区、代表取締役CEO: 大場カルロス)は、これらのインターネットに接続できない農村部の住民に対して「分散型通信」と呼ぶ独自の手法で通信デジタルプラットフォームを構築し、そのプラットフォーム上でスマートフォンを通じて利用できる農村の課題解決に特化した様々な利便性の高いサービスを提供して、デジタルデバイドの状態を解消し、農村にある様々な制約を通信とデジタルの力で解消することを目指している。

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 近年、アフリカの国々には投資が集まり、目覚ましい経済発展やデジタル化を遂げつつある。一方で、その発展は都市部に限定されており、所得が低い地方農村部では投資をしても採算が取れないという理由で後回しにされ、現在もデジタル化を始めとした様々な課題が解決されないままの状態という。アフリカ全体でのインターネット接続率は30%以下とされているが、従来の通信会社は収入が低く分散して住んでいるこれらの地域に巨額の初期投資を行って通信インフラを設置することに優先的な価値を見出せずにいることから、デジタルデバイドと呼ばれる状態の改善には至っていないという。
 Dots forは課題に対して、無線技術「メッシュネットワーク技術」を活用し、村の中に無線ネットワークインフラを圧倒的安価・短期間に構築する「分散型通信」を展開し、デジタル上で完結できる農村の課題解決に特化したサービスを提供することで解決する。「分散型通信」の低コスト構造によって、従来の方法での展開時に課題となっていた採算性の問題をクリアしながら、村民が継続的に支払続けることが可能な安価でデジタルサービスにアクセスできる「村のデジタルプラットフォーム」を構築した。今後は、このデジタルプラットフォームを通して、遠隔教育、遠隔医療、クラウドワークなどを提供し、地方にいても都市や先進国と遜色ない生活を送れる世界をアフリカの全農村に広げていくとしている。
 中核となる分散型通信ネットワーク機器の「DC Box」は、大規模な基地局に依存せず、遠隔地でも迅速で信頼性が高く、低コストでデジタルコンテンツやサービスにアクセスすることができる。さらに、村のデジタルプラットフォームの「d.CONNECT」と組み合わせることで、スキルアップのための学習や、必要な機材を分割で購入できるマーケットプレイス、雇用創出へとつなげ、人々の日常生活を直接的に向上させるという。
 主な特長として、超低コストによる導入や、わずか3時間程度でローカルネットワークを構築して利用することが可能であること、また電力は太陽光パネルでの充電で賄っており、通電していない地域でも安心して使えるとしている。
 デジタルプラットフォーム「d.CONNECT」は、学習コンテンツ、マーケットプレイス、仕事の機会にアクセスすることができる。このアプリは、農村における日常生活に役立つデジタルサービスを提供し、利便性の向上や新たな収入源の創出を通じて、地域の暮らしをより豊かにする。DC BoxのWi―Fiネットワークと連携することで、遠隔地でもこれらのサービスを利用可能としている。
 このアプリを通じた主なサービスとして、バイクやミシンといった必要な商品やサービスを分割払いで購入できる「Marketplace」、スマートフォンを通じてAIデータアノテーションなどのデジタル業務にアクセスでき、コミュニティを離れることなく仕事を受注できる「Job opportunities」、仕事を始めるのに役立つトレーニング動画を通じて新しいスキルを習得でき、さらに多様なエンターテインメントコンテンツも楽しむことができる「Learning contents」、印刷、スキャン、コピーを含むプリントサービスをコミュニティ内に提供する「Printing services(Photocopie)」等を展開している。

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 茨城県小美玉市出身という代表取締役CEOの大場さん(本名:大場博哉)は、4年前の2021年10月に同社を立ち上げた。アフリカのベナン、セネガルに拠点を置き、ザンビアではフランチャイズ展開もしている。社員は現在約50人。ほとんどが現地採用で、日本人は大場さんを含めて4人しかいないという。事業の本格化に伴い、妻と2人の子供を連れて2年前にベナンに移住した。
 「人生旅人」を座右の銘としているほどの旅行好きで、これまでに訪れた国は100を超える。小さいころから知らない場所に行くのが好きだったが、12歳で父親が、25歳で母親が亡くなり、帰る場所がなくなったことで本格的に世界を旅して回ることを決意した。「カルロス」の名前の由来は、スペインを訪れた際に現地人に間違われた出来事から。約13年前にMBA留学のために訪米したとき、ラテンアメリカ系の人々と関わる機会が多かったことからスパニッシュネームとして「大場カルロス」と名乗るようになったという。
 起業前はアフリカで電気が通ってない農村地域にLEDランタンを提供する会社で働いていた。「働いているうちにアフリカの地方部が世界でも一番取り残されているという格差を感じた。格差を解消するにはどんな事業を立ち上げればいいか。水や電気を引くだけでは根本的な解決には至らない。格差が解消しない一番の理由は通信へのアクセスがないことが大きいと感じたことが起業のきっかけだった」と話す。
 同社の事業では、通信環境の整っていない地方の村にWi―Fiを使ったインフラネットワークを設置し、そこからローカルサーバーを通じて各種サービスを提供する。前職での経験を活かして各地域の村人に代理店としての役割を負担してもらい、そこを拠点としてサービスを展開していく。設立から現在までに、ベナンとセネガルでは15%程度に当たる約400カ所の村で60万人がサービスを利用している。
 元から通信業界に携わっていた経験はなく、通信環境の整備は全て独学で考案したという。「基本的にはありものを組み合わせただけ。技術的に複雑なことをしたわけではなかったことが良かった」と語る。
 設立から2か月ほどで収益化には成功したが、アフリカの抱える貧困問題に直面する出来事もあった。設立当初はサブスクリプション方式でエンタメ動画を中心に配信。登録者も順調に増えていたが、しばらくするとみな一斉に解約を申請してきた。理由は、収入が低いためにエンタメのコンテンツにお金を払い続けることができないこと。「お金を払ってもらうことだけでなく、まず余裕を作ってもらうためにも稼いでもらうことを主軸にすることが重要と気づいた。それ以降は収入を上げてもらうために職業訓練のための動画も取り入れることにしたが、これがターニングポイントだったかもしれない」。
 慣れないアフリカの地で言語や文化の壁を感じることもあったが、それほど苦労に感じたことはなかったという。「一番苦労しているのは資金調達。例えば日本で調達するにはアフリカの背景から説明しないといけない。お金や機材を盗まれるトラブルもあったが、ビジネス自体に苦労は感じていない。事業が拡大しているのにお金が集まらないという難しさはある」と話す。
 今後はサービスの効率化を図りながら黒字化を目指し、2030年までには西アフリカ全域にサービスを展開しながら、フランチャイズも組み合わせてアフリカ全土の農村にサービスを届けることが当面の目標という。ホンダやブラザー工業など大企業との連携も進めている。
 「アフリカの地方そのものに日の目を当てたい。支援や施しの場と偏見も多いが、実は巨大なポテンシャルのある場所。アフリカだけでも7億人、世界規模で見れば約35億人がデジタルデバイドの状況にあるが、そのマーケットはニッチとは言えない。それを証明したい。まずは西アフリカから、その後アフリカ全土のデジタルデバイドの課題解決を進める。中南米や南アジアなどにもデジタルデバイドはある。そこにも日本のカルチャーとして拡大したい。世界の誰よりも通信の力を信じている」と力を込めた。

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kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。