IEEEマイルストーンに認定 NICT・標準電波JJY歴史的業績として高く評価
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長:徳田英幸)がその前身組織から受け継いで運用しているJJYをコールサインとする標準電波がこのほど、米国に本部を置く世界最大級の学術・標準化団体IEEEからIEEEマイルストーンの認定を受けた。IEEEマイルストーンは、電気・電子分野の画期的なイノベーションの中で、開発から25年以上経過して、社会や産業の発展に多大に貢献した歴史的業績を認定する制度。標準電波JJYは1940年の世界で2番目の標準電波局開設以来、日本の放送・電力・交通等のインフラシステムが共通の時刻や周波数を利用することを可能にし、戦後日本の復興、技術革新、近代化を支え、また現在も電波時計等に広く利用されており、その歴史的業績が高く評価された。アメリカ現地時間の2025年11月24日(月)に、IEEE理事会で決定された。

昭和の初め、無線通信技術の発達に伴い電波の利用範囲が広がる一方で、各無線局が発射する電波の周波数が公称の周波数からずれていることによる混信が多くなった。その解決に向けて、各無線局が発射する周波数を公称のものに正確に合わせることが必要になり、その基準とする周波数の電波すなわち標準電波を発射する標準電波局が必要とされた。このため、NICTの当時の前身組織である逓信省電気試験所は1940年1月に、周波数4 MHz他の短波の標準電波局(コールサインJJY)として、千葉県に検見川送信所を開設した。米国の標準電波局(コールサインWWV)の送信所に続いて世界で2番目の開設で、終戦による一時的な中断を経て、1948年8月には標準電波に秒信号を追加することによって時刻通報を開始した。
戦後の標準電波は、国内の無線局検査の基準用途以外にも、試験場や工場での周波数基準、電話による時報サービス、テレビ・ラジオ放送の時刻周波数同期などに幅広く利用された。その間、送信所は検見川町から小金井町(現・東京都小金井市)、さらにNTT名崎送信所(茨城県)に移転したが、短波による標準電波の精度が時代の要請を満たさなくなってきたため、短波標準電波送信所は2001年3月に完全廃止された。
一方で、短波標準電波より高精度な標準周波数を送信するため、1999年6月に福島県に、長波による標準電波局JJYとして、おおたかどや山標準電波送信所(送信周波数40 kHz)が開設された。さらに2001年10月には佐賀県と福岡県の県境に第2のJJYとして、はがね山標準電波送信所(60 kHz)が開設されて、世界的にも他に例が無い、2送信所の同時運用による長波標準電波局の体制が確立して、現在に至っているという。
特に長波標準電波には時刻コードが含まれており、それを利用して自動で時刻調整する電波時計が現在国内で広く普及している。
これらの業績から、IEEEは標準電波JJYに対してIEEEマイルストーンの認定を実施。IEEEマイルストーン は、電気・電子・情報技術の発展に大きく寄与した歴史的成果を顕彰する制度であり。IEEEの中でも最も権威ある認定制度の1つ。IEEE理事会により決定され、現、前、元あるいは次期のIEEE会長が贈呈者として赴き、業績をたたえる銘板がそれに関係のある場所で直接手渡される。この制度は1983年に創設されて、2025年9月22日までに世界で297件の業績が認定されており、その内で日本の業績に対するものは58件になる。
現在、標準電波の発射は、総務省設置法第4条1項68号及び国立研究開発法人情報通信研究機構法第14条1項3号によりNICTの法定業務として規定されている。NICTでは、今後も標準電波JJYを安定に運用して、高精度な標準周波数と日本標準時を利用者に届けるとしている。
◇
※コールサイン:無線通信において無線局を識別するために各局に割り当てられた固有の符号のことで、アルファベットと数字で構成される。コールサインを持つ無線局は、その通信の中でコールサインを送出することで、電波を発射した局の所在や種別が識別される。
※標準電波局:国家標準またはそれに準ずる周波数を含む信号を標準電波として送信する行政機関等が運用する無線局のこと。日本の法律上の種別は、電波法施行規則第4条第1項第28号における標準周波数局である。無線設備としての標準電波送信所と無線設備の操作を行う者の全体を含んでいる。
※逓信省電気試験所:電気事業の監督を所管する逓信省に1891年に設立された物理工学系の研究機関。戦時中の1943年に逓信省は運輸通信省に統合されたが、1946年に再び設置された逓信省の研究機関となった。1948年に商工省電気試験所と逓信省電気通信研究所に分割され、後者は現在のNICT、NTT通信研究所、KDDI総合研究所のルーツとなった。
※短波:3~30MHzの電波。上空の電離層と大地の間を反射して遠方まで無線通信・放送ができる長所がある。一方で、電離層の状態によっては反射により異なる経路を通った電波が干渉し、強度や周波数が乱れるなどの短所がある。
※長波:30~300kHzの電波。地表に沿って伝わり、障害物も回り込むため、遠方の様々な場所まで無線通信・放送が可能になる長所がある。一方で、送信には数100 mの大型のアンテナと大出力送信機が必要になるなどの短所がある。
この記事を書いた記者
- 主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。
最新の投稿
情報通信2025.12.19先駆け―未来への方程式― アフリカで通信インフラを展開する「Dots for」
情報通信2025.12.19電子版電波法令集の提供を開始 情報通信振興会
行政2025.12.19総務省がR7年度版周波数再編アクションプラン策定
筆心2025.12.192025年12月19日(7886号)