世界初、ミリ波・テラヘルツ波統合ビームフォーミング通信の実証に成功
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、大野英男理事長)は、次世代の超高速・大容量かつ高信頼な通信の実現のため、ミリ波・テラヘルツ波の2波自動切換えとビームフォーミングを一体的に動作させる通信技術の実証に世界で初めて成功した。
本技術が実用化されれば、クロスリアリティ(XR)、超高精細映像伝送やスマートファクトリーなどの次世代無線アーキテクチャを必要とするユースケースへの応用が期待されるとしている。
近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展やIoT機器の普及、さらにはAIの高度化に伴い、社会全体のデータ通信量は爆発的に増加している。現在の5G通信でも将来的な需要を十分に支えきれない可能性が指摘されており、その先に位置づけられる「Beyond 5G」や「6G」の実現に向けた基盤技術の確立が急務となっている。
こうした背景の中で注目されているのが、テラヘルツ波と呼ばれる高周波帯の電波。これは従来の通信で利用されてきたマイクロ波に比べて数倍から数十倍の周波数帯域を持ち、理論上は数十Gbpsを超える桁違いの超高速・大容量通信を実現できる可能性を秘めており、XR、超高精細映像伝送やスマートファクトリーといった次世代サービスを支える上で不可欠な技術と言える。
一方で、テラヘルツ波には「電波が届きにくい」という特性がある。高周波帯は直進性が強く、建物や人などの障害物に遮られやすい上、空間中での減衰も大きく、従来技術のみでは実用的な通信手段として成立しない。
この課題を克服する鍵となるのが、ビームフォーミング技術。複数のアンテナ素子を用いて電波の位相や強度を制御し、特定の方向にエネルギーを集中させることで、通信の到達距離や品質を向上させる技術だが、テラヘルツ波では非常に鋭い指向性を持つ細いビームを利用する必要があり、端末やユーザーがわずかに移動しただけでもビーム方向がずれて通信断が発生しやすくなる。そのため、高速かつ高精度なビーム探索・ビーム追尾技術が不可欠だが、従来方式では探索オーバーヘッドや制御遅延が大きな課題となっていた。また移動環境では、テラヘルツリンクを安定維持することが難しく、実環境での適用には更なる技術革新が必要とされていた。
こうした課題に対し、本実証では比較的安定性と実用成熟度の高い「ミリ波通信」と、超高速性に優れる「テラヘルツ波通信」を統合利用するアプローチを図った。ミリ波は、テラヘルツ波と比較して伝搬特性に優れ、遮蔽耐性やモビリティ対応能力が高く、既に5Gで商用利用が進んでいる。一方で、利用可能帯域には限界があり、将来的な超大容量通信需要を単独で支えることは難しいと考えられている。そこで、ミリ波側を「ビーム制御・追尾・接続維持」に活用し、テラヘルツ波側ではビーム制御を行いつつ「大容量データ伝送」に特化させることで、双方の弱点を補完する次世代無線アーキテクチャを実現した。
今回、ミリ波とテラヘルツ波の自動切換えとビームフォーミングが可能な通信装置を開発し、電波暗室での実証試験を行った。
この通信装置には、①通信距離が変化した場合には、近距離ではテラヘルツ波による高速通信を行い、より広いエリアや遠距離では自動的にミリ波通信へ切り換えて接続を継続する、②受信機の位置が変わると、送信機から出るビーム方向が変わる、③送信機のビーム方向が変化して高速通信の接続を維持する、という機能を持たせた。実験では、送信機を動かし、受信機との位置関係を変えて受信状況を調べた。
この結果、受信機の方向によって電波のビーム方向が切り換わり、受信機までの距離によってミリ波とテラヘルツ波を自動的に切り換えることに世界で初めて成功した。
また性能面では、従来のミリ波標準規格(2 GHz帯域幅)における2.2 Gbpsの伝送速度から、テラヘルツ波(8 GHz帯域幅)を用いることで最大7.5 Gbpsの伝送速度を実現。加えてアンテナ制御により、ミリ波では±60°、テラヘルツ波では±40°程度の広い範囲をビームフォーミングでカバーすることが可能となった。
ミリ波とテラヘルツ波を電波伝搬環境に応じて自動的に切り換え、高精度なビームフォーミング制御によって通信の安定化を図ることで、次世代の超高速・大容量かつ高信頼・低遅延な通信を実現。テラヘルツ波は直進性が強く、人や物体による遮蔽や減衰の影響を受けやすいという課題があるが、受信信号品質に基づいて周波数帯を自動切換えし、さらにビームフォーミングにより常に通信相手方向へ電波を向け続けることで、この課題を克服し、高速通信の安定化を可能とした。
今回の成果は、「Beyond 5G」や「6G」の実現に向けた基盤技術となる超高速・大容量通信を実現できる可能性を秘めており、XR、超高精細映像伝送やスマートファクトリーといった次世代サービスを支える上で不可欠な技術と言えるとしている。
今後の展望としては、テラヘルツ波無線信号の更なる広帯域化及びアンテナ素子の多素子化を進めることで、超高速・高信頼リンクの実現を目指す。また、送受信におけるビームフォーミング機能の実装により通信品質及び空間分解能の向上を図る。これらの技術的発展を通じて、通信方式の標準規格化及び実用化への展開につなげていくことが期待される。
◇
※ミリ波・テラヘルツ波:ミリ波は波長が1~10 mm程度(周波数: 30 GHz〜300 GHz)の電波、テラヘルツ波は更に波長が短く3 mm~30μm程度(周波数: 0.1 THz〜10 THz)の電波である。
※ビームフォーミング:複数のアンテナ素子を協調動作させて、電波を特定方向へ集中させる技術であり、特に電波が減衰しやすいミリ波・テラヘルツ波で重要となる技術である。
※クロスリアリティ(XR):XR(Extended Reality、クロスリアリティ)は、現実世界と仮想空間を融合し、現実にはないものを知覚できる技術の総称であり、主にVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)をまとめてXRと呼ぶ。
※スマートファクトリー:工場内の機械、ロボット、センサー、人をネットワークでつなぎ、自動化・最適化する仕組みである。
※マイクロ波:マイクロ波は波長が1m~10 mm程度(周波数: 300 MHz~300 GHz)の電波であり、マイクロ波の中でも特に高周波側がミリ波であるため、マイクロ波 → ミリ波 → テラヘルツ波の順に波長が短く(周波数が高く)なる。
※アンテナ素子:電波を送受信するための最小単位のアンテナであり、多数のアンテナ素子を使用して、ビームフォーミングを実現する。
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- 主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。
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