フジテレビ ドラマ制作にAI活用 制作と技術が連携するラボ「AI Sandbox」設置

フジテレビは、今年7月の組織変更でデジタル戦略統括室内に「AIセンター」を新設した。同センターのもと、湾岸スタジオにAI活用の実験場「AI Sandbox」を設置し、実写ドラマ制作における生成AIの活用を本格的に進めている。すでに今期のドラマ「救命病棟24時」(毎週月曜21時)をはじめ、複数のドラマでの活用が始まっており、クリエイターの発想を映像で実現する新たな選択肢として、表現の幅を広げるとともに、より良い制作環境作りに活用されている。

 

AI活用の背景と方針

 

同社は現在、地上波ゴールデン・プライム帯の連続ドラマを年間16本制作しているが、撮影を取り巻く環境の変化を踏まえつつ、作品の世界観や演出意図を実現することが求められている。こうした環境の変化に対応するため、生成AIを制作手法の一つとして取り入れ、活用する方法が検討されている。撮影前の準備段階から脚本や目指す映像を共有し、実写撮影、VFX、CG、生成AIなどの中から、作品やシーンに適した手法を選び、従来の撮影条件では難しかった表現に取り組むとともに、現場の負担軽減や安全性の向上が図られている。

 

「AI Sandbox」の推進体制

 

「AI Sandbox」は、AIセンターのもと、第1スタジオ(ドラマ・映画制作センター)、テックアートデザイン局、AI関連企業のANDENTなどで構成するプロジェクトチームが9月より運用している。ドラマ制作に携わるディレクターやプロデューサー、技術スタッフが、外部のAIプロデューサーやAIデザイナーとともに、実際の制作を通じて活用方法を検証しており、生成AIを活用した一部の映像制作工程では、従来の手法と比べて作業工数を最大70~80%削減できることを確認した。なお、この数値は特定工程の検証結果であり、作品全体の制作費の削減率や制作工程全体の平均削減率を示すものではない。

 

ドラマ「救命病棟24時」で実践

 

「救命病棟24時」第一話「AI Sandbox」で作成された爆発事故シーン(空撮自体がAIで生成した架空の風景。そこにさらに煙を合成)

 

現在放送中のドラマ「救命病棟24時」の制作で「AI Sandbox」が活用されている。撮影前に監督が思い描く映像を生成AIで可視化し、制作・技術スタッフで共有。完成イメージを事前にすり合わせ、撮影方法を検討し、従来の映像制作技術、VFX作業、AIなど、さまざまな制作方法を「作品のクオリティ」を第一に使い分けている。AIを医療シーンの細かな映像処理や、実際の撮影だけでは実現が難しい事故現場の表現などに活用している。

 

今後の予定

 

フジテレビでは、2026年10月期から毎クール1本以上のドラマを「AI強化枠」に設定し、「AI Sandbox」で実際の作品制作に挑戦する。かかる取り組みを通じて得た経験や知見を社内で蓄積・共有し、活用の幅を広げていく。2027年10月をめどに、同局が制作するすべてのドラマでAIを、作品やシーンに応じて活用できる体制を整える。その後、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)の映像関連企業にも取り組みを展開し、2029年度には、FMH全体で国内トップベンダーレベルのAI活用機能を保有することを目指す。

 

関係者コメント

 

■「AI Sandbox」技術統括/テックアートデザイン局長補佐・真崎晋哉氏
「『AI Sandbox』を始めたのは、AIで何ができるかが見えつつある中で、実際に手を動かし、作品づくりの中で試す場所が必要だと考えたからです。『救命病棟24時』では、最新のAI技術の活用に取り組んでいますが、すべてをAIで作るのではなく、従来のVFXなどと組み合わせ、作品にとって最も良い方法を制作スタッフと一緒に考えています。効率化だけでなく、映像表現の幅を広げ、その経験や知見を社内に蓄積することが、『AI Sandbox』の大きな目的です」

 

■フジテレビ第1スタジオ ドラマ・映画制作センター部長 (戦略・ビジネス開発・制作推進担当)・長嶋大介氏
「視聴者の目は非常に肥えています。限られたスケジュールの中で、いかにクオリティの高い作品を届けるか、制作者は日々苦心しています。今回の取り組みは、AIという新たな選択肢を加え、連続ドラマ制作のワークフロー全体をアップデートしていくものです。場所、天候、法令、安全面などの制約で撮影が困難なシーンの表現から、制作初期のイメージ共有まで、活用の場面は多岐にわたります。現場のプロデューサーからも『取り得る選択肢が増えていくのは大変助かっている』という声を聞いています」

 

■フジテレビ第1スタジオ ドラマ・映画制作センター(「救命病棟24時」プロデュース)足立遼太朗氏
「『救命病棟24時』シリーズで初めて「AI Sandbox」チームが参画しました。撮影前から監督が思い描く場面を具体的な形(画像・映像)で共有し、実写と映像処理をどう組み合わせるかを制作・技術で検討しています。『こういう場面を見せたい』という思いを出発点に、実現方法を一緒に考え、撮影に臨めることを心強く感じています。特に災害シーンや海外設定のシーンでは、想像を超える映像クオリティが実現しています。AIは単なる効率化にとどまらず、映像表現の可能性を大きく広げる技術だと実感しています」

この記事を書いた記者

村上潤一
テレビ・ラジオ番組の紹介、会見記事、オーディオ製品、アマチュア無線などを担当